過去ログ - 日向「信じて送り出した七海が」狛枝「2スレ目かな」
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以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
2014/02/05(水) 04:52:11.04 ID:peHDovB80
小さく麗の名前を呟くと、咲良は荷物をその場に置いたまま、ふらふらと歩き出した。
「……待て、上野原!
高須、立て!!」
開くのも億劫に感じる口を開いて咲良を制止したが止まらないため、重くてたまらない体を動かして撫子の腕を掴んで無理やり立ち上がらせた。
地図をポケットに突っ込み、自分と咲良の荷物を肩に掛け、左手で撫子の手を取り(こんなことをしても何一つ反応を示さない位、撫子も放心状態だった)、咲良の後を追った。
ようやく咲良の腕を掴んだ時、鬱蒼としていた木々が途切れ視界が開けた。
まだ少し暗いが青い空が広がり、景色を二分するように白い灯台が朝日を浴びて輝いているように見えた。
そして、灯台に凭れて座っている誰かの姿を確認した。
風に靡く明るい茶髪、きちんと着こなされた男子の制服――それはあまりにも見慣れた容姿で、あまりにも見たくなかった光景で、胸が痛み息が詰まった。
力の抜けた手から咲良の腕がするりと抜け、ゆっくりと背中が離れていった。
「高須、顔を上げて」、俯いたままの撫子に声を掛けると、撫子は日頃からは想像できない程ゆっくりと気だるげに顔を上げ、充血した目を大きく見開くと、瑠衣斗の手を振り払い荷物も捨てて灯台へと駆け出した。
瑠衣斗は撫子の荷物も肩に掛け、2人の後を追った。
「瑠衣斗…っ」
灯台の下まで辿り着くと、灯台に凭れかかる麗の傍にいた朝比奈紗羅(女子一番)が大きな目を真っ赤に腫らして瑠衣斗を見上げた。
麗しか目に入っていなかったのだけれど、麗と同じ班として教室を最初に出発した木戸健太(男子六番)・紗羅・鳴神もみじ(女子十二番)が傍にいたのだ。
これで池ノ坊奨(男子四番)がいれば全員集合だったな、ぼんやりとそう思った。
まさか、誰もが悲しみに暮れた再会になるだなんて思いもしなかったけれど。
咲良は麗の傍に座り、じっと麗の顔を見つめていた。
奨の死を目の当たりにした時にはあれ程泣き叫んでいたというのに、今は涙一つ零さず、声も発さず、麗から視線を離さない。
その様子が、何をしでかすかわからず却って恐ろしい。
「ああ…城ヶ崎さん、城ヶ崎さん…ッ!!
起きてください、冗談はやめてください、お願いしますッ!!!」
撫子は麗の肩を掴み、何度も揺すった。
がくりと下がった頭が左右に揺れるが、撫子が手を止めるとそれも止まり、あの自信満々な笑顔を浮かべて顔を上げることはなかった。
瑠衣斗も麗の傍らに膝を付いた。
白皙の右手に触れると、これが人間の手なのかと思う程に冷たく、手首を親指で撫でながら脈を探したものの、微動だにしなかった。
男にしては華奢な首筋に触れてみる。
血の気の引いた冷たい頬に触れる。
顔を覗き込んでみても、閉じられた目は開かない。
紅色のペンキを刷毛で乱暴に払ったような白い灯台の壁面、赤黒く変色したベージュのベスト。
もう、疑う要素が見つからない。
受け入れるしかない。
麗は、死んだ。
初めて会った日から、「仲間になれ」としつこく勧誘してきた麗。
今でも夢に見る程に記憶に残る、勧誘してくる麗と拒む瑠衣斗の追いかけっこ。
15年という短い人生しか歩んでいないけれど、運動が酷く苦手だということを知っても、麗がそのことを含めた瑠衣斗の存在を受け入れてくれたことは、瑠衣斗にとっては人生の転機だった。
金持ちの感覚に付いていけないこともあった。
思考が理解できないと思ったことは、一度や二度ではなかった。
けれども、それも含めて、麗の友人として過ごした日々は、人生の中で最も楽しくて輝かしいものだった。
自信に満ちた振る舞いも、自分より背丈は小さいのに大きく見えた背中も、人の目を惹き付ける笑顔も、もう見ることができないだなんて。
気付けば、瑠衣斗の頬を一筋の涙が伝っていた。
誰かのことで涙を流すだなんて昔の自分からは考えられないことで、瑠衣斗自身驚いたのだが、指で拭っても拭っても瑠衣斗の頬は濡れたままだった。
ゆらり、と、隣で撫子が体をふらつかせながら立ち上がるのを目の端で捉えた。
咲良の傍に行くのだろうかとぼーっとする頭で考えたのだが、撫子は瑠衣斗の後ろを通り、放心状態の咲良の傍も素通りし、麗の足元で俯く健太の横で止まった。
スカートの背中側に差し込んでいた短刀を手に取り、ゆっくりと鞘をずらし、顕わになった刃が朝日を反射して煌めいたところで、瑠衣斗は目を見開いた。
「高……――」
「誰!!? 誰が城ヶ崎さんを裏切ったのッ!!?」
瑠衣斗の制止の声を遮り、撫子は金切り声で叫ぶと、短刀の刃の切っ先を健太へと向けた。健太は驚愕の表情を浮かべて後ずさり、撫子を見上げていた。
「裏切るって…何言ってんの、そんなのあるわけないじゃん!!」
「黙りなさいッ!!」紗羅の反論を、撫子は一蹴した。
「城ヶ崎さんは貴方がたのリーダーではなかったのですかッ!? そうでしょう、そのはずです、城ヶ崎さんが庶民の下に付くなどあり得ませんッ!! 確認するまでもありませんッ!!!」
撫子は『確認するまでもない』と叫ぶが、瑠衣斗は麗の冷たくなった右手を取り、シャツの袖のボタンを外し、ゆっくりと袖を捲った。白い腕に、はっきりと黒い王冠の印――瑠衣斗の腕にもある、班のリーダーの証が印されているのを確認し、小さな溜息と共に目を閉じた。証拠を目にした撫子は、一層眉を吊り上げた。
「ほら、御覧なさい、やはり城ヶ崎さんではないですかッ!! このプログラムは、リーダーが亡くなった場合はメンバーも道連れになるルール… 本来なら、貴方たち庶民が生きているはずがないッ!!! ただ一つ、下剋上ルールが適応される場合を除いてッ!!! 城ヶ崎さんを殺めた犯人は、木戸さん朝比奈さん鳴神さん以外あり得ないッ!!! さあ、誰ッ!!?城ヶ崎さんを裏切り、殺めたのは誰ですかッ!!?」
撫子の怒りに満ちた言葉の内容は、状況から正しく導かれたものだった。とても信じられないことだが、麗を死に追いやった人物は、健太か紗羅かもみじ――この3人に絞られてしまっている。他の班の誰かに麗が殺されたのであれば、今頃3人の名前も放送で呼ばれ、頭と胴体が離れた死体が転がっているはずだ。今回のプログラムで採用されたチーム戦の特殊ルールは、プログラム開始間もない頃に目の当たりにしたのだから、嘘偽りではない。
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