過去ログ - 【モバマス】「こんなにも幸せな傷あと」【佐城雪美】
1- 20
11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2013/12/20(金) 22:17:31.79 ID:NFA4OfSv0
 CDショップの壁には、幸子さんのポスターが何枚も貼ってある。

 イベントが始まるまで結構な時間があるのに、店の中にはたくさんの人がいる。

 店内を歩き回っていると、店員さんと話しているスーツ姿の男の人がいた。

 こちらを向いた彼が、私に気づく。

「雪美ちゃん? もしかして、幸子に会いに来てくれた?」

 そっか……幸子さんの、プロデューサー。

 私が頷くと、彼は嬉しそうに笑う。

「ありがとう、幸子も喜ぶよ。平気そうに見えて、意外と繊細だからさ、緊張してるんだ」

 奥の部屋に通されると、そこには、パイプ椅子に腰かけて鏡と睨めっこしてる幸子さん。

「……こんにちは」

 ぜんぜん、私に気づいてなかったみたいで、びくっと肩を震わせる。

「雪美ちゃん、ですか。可愛らしいお客様が来てくれたものですね」

「私のこと……知ってる?」

「同じ事務所ですし、雪美ちゃんは同年代の子の中では頭ひとつ抜けてるでしょう。ドラマ出演の経験なんて、ボクですらまだありませんし。まあ、そう遠くないうちにボクにもお呼びがかかる予定ですけどね!」

「幸子さん……可愛いから……きっとそうなる」

「ボクの可愛さに気づくとは、なかなか見込みがありますね」

 壁際から、幸子さんが折り畳まれたパイプを引っ張り出し、私の前に置いてくれた。

「ところで、ペロちゃん同伴だなんて、嬉しいですね」

 膝の上のペロを見て、幸子さんが口元に微笑みを浮かべる。

「すごい……ペロのことも、幸子さん……知ってる」

 ペロが感激したみたいに尻尾を振り、私と幸子さんの顔を繰り返し見た。

「まあ、ボクは見ての通り勉強家ですので、他のアイドルの動向には常に気を配っているんですよ。一線で活躍する人たちのインタビューや写真からは学ぶところも多いですから。多くのファンに支持されるアイドルというのは、自分をより魅力的に見せる方法を知っているものです」

 幸子さんは、鞄を手元に持ってくると、机の上に中身をひっくり返すようにする。

 中からは、たくさんのファッション雑誌が津波みたいにこぼれ出てきた。

 すらりと長く綺麗な幸子さんの指が、そこから一冊の雑誌をつまみ上げた。

 表紙を見た瞬間、私の心臓が……どくんと跳ねた。

 ずいぶん前に発行された、私が表紙の……ファッション雑誌。

「雪美ちゃんは、アイドルを辞めたいと思ったことはありますか?」

 驚きに目を見開いた私を……幸子さんが優しい目で見下ろしてた。

「ボクにはあります」

 膝の上に乗せた幸子さんの手は、少し、震えてる。

「ボクを信じ、ひとりのアイドルにまで導いてくれた人がいます。ボクの中で、彼の存在は大きくなる一方で、ボクの人生も夢も、いつしか彼なしには成立しなくなっていたぐらいです。だから、突然に彼から別れを告げられた時、ボクはこれ以上アイドルを続けても意味がない、と本気で思いました」


<<前のレス[*]次のレス[#]>>
30Res/44.79 KB
↑[8] 前[4] 次[6] 板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。




VIPサービス増築中!
携帯うpろだ|隙間うpろだ
Powered By VIPservice