過去ログ - 泉「未来へのテトラード」
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18:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
2014/01/01(水) 20:54:27.32 ID:mMrPH74Do

「いや何、ちょっと勝手に親心を感じてただけだ」
「ふふ、何それ」
 泉が俺の言葉に反応して笑みを漏らす。

「何だろうな、ずっと一緒にいるせいで、まるで子供の世話をしてるみたいに感じてたらしい」
「さくら達はもう子供じゃないですよぉ」
 シュークリームを頬張る姿はさしずめ少女そのものだが、彼女の言うことも尤もである。

 つまるところ、どうしても心配してしまうようだ。

 デビュー前の迷いを知っているから、失敗した後の失意を感じているから。
 穴が空いているなら、俺はそれを埋める。俺がそうするのはそれが仕事であり、義務だからだ。

 だが、穴はいつまでも空いている訳ではない。
 勿論直した穴がまた空くことだってあるが、埋めていく内に彼女たち自身でそういった穴を埋める事ができるようになっていたのだ。

 それでも俺は埋め続けた。
 義務感に追われて、といえばそれは絶対に嘘である。
 ……それは、不安だった頃の彼女たちの幻影を未だ見ているからだ。


 結局、つまらないと感じていたのは同じ映像を何度も何度も見ていたからである。
 同じ景色を見続けていれば、例えそれが美しかろうと飽きてしまうものだ。

 少し先を見れば全く違った景色が見えていたはずなのに、俺はいつしか根っこの部分でA‐Bリピート再生にモードを切り替えていたのである。


 目の錯覚から覚めると、亜子が姿勢よく座りなおして首を揺らした。
「アタシらはどんどん成長するけど、Pちゃんも成長せな駄目よ? 隣、歩いてもらわなあかんからね!」
 彼女の目尻が下がる。
 今の俺の立ち位置は、きっと彼女たちの遥か後方か、それとも別の道に迷い込んでいるかのどちらかなのだろう。
「大丈夫だよ、亜子。Pが成長してなかったら、私達が特訓に付き合ってあげればいいじゃない」
「さくらもプロデューサーさんの先生になりまぁすっ」

 言いたい放題である。言いたい放題だが……これが彼女たちが考える、俺との距離なのだ。
 俺の考えていた距離よりもずっと近い、本来の距離、そして、あるべき距離。

 思い返せば、少し前に発していた泉の言葉は俺が思っていた物と違うのかもしれない。
 『後ろは見なくても大丈夫』という彼女の発言に根拠は含まれていないが、もしも、その隠された根拠が『自分で見ることができるから』だったとすれば――。


「……じゃあ、しばらく先生になってもらおうかな」
 朧気ながら原因が見えたような気がして、いつしか俺は、そっと笑っていた。




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