2:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
2014/01/01(水) 20:28:20.31 ID:mMrPH74Do
予想外、という言葉は、自分自身あまり好んで用いたくはない。
何故ならば、予想外を予想していなかった時点で落ち度は自分にあると宣言しているようなものだし、なにより予想外という言葉を用いらざるを得ない状況下では、既に未来は自分の手から離れ、縦横無尽に、遊び盛りの子供のように動きまわっているからである。
そんな事をふと考える。
それは、すなわち今がその時であることを表していた。
「はい、出来たよご飯」
簡素な、おおよそ新しいとは言えないテーブルの上に、コトン、と小気味よい音を立てて陶器の皿が置かれる。程よく色違えた白の皿の上には野菜の絨毯が敷かれ、そこで愛を育むかのように熱された鶏肉とベーコンが寄り添い合っていた。
少し涼しげな部屋に、たちまち料理の匂いと温かみのある湯気が立ち込める。この職業に就いてからは長らく感じることがなかった遠い感情だ。
「……私の顔に何かついてるの?」
意図せず、俺の視線は彼女に向いていた。それに気づいた彼女は、訝しげに首を傾げ、この視線の所在を訊ねてきたのである。
「いや、なんでもない」
すかさず取り繕うと、そう、と気のない返事をして再び台所へと去っていく。居間から見えるコンロには、フライパンが一つと鍋が一つ置かれているので、恐らく再び彼女はここにやってくるだろう。
もわもわと鼻を躍らせる良い香りを感じていると、俺の脇、丁度左隣の椅子から、可愛げのある声が聞こえた。
「えっへへ、イズミンの料理はおいしいんですよぉ!」
何ともおとぼけた、緊張感のない声である。
「せやでー。こればっかりは金じゃ買えんからなあ」
そして向かいの椅子からも、今度は芯のあるはつらつとした声が聴こえた。
――もしも俺に妻や子供が居れば、と考える。
朝起きて寝ぼけ眼ながら挨拶をして、着替えてテーブルにつけばおいしい食事がでて、元気な子供と共に食事を楽しんで仕事へと出かける。
なんと素敵な事だろうか。
昨今では食事を担当する男性も多いと聞くが、残念ながら俺にその技能はないし、そもそもそんなものに時間を割く余裕がある程猶予のある生活をしていない。
もし、もしもだ、そんな生活を受け入れて、こうして支えてくれる人が居るならば、俺は毎日仕事に明け暮れたって疲れを知らず、フルシーズン戦い続けることができるだろう。
もしも。それが毎日で、日常であれば、の話である。
「こーら。……二人とも準備してよね、もう」
困り顔の少女は、ため息をつきつつも笑う。
同様に、各々謝りつつ、朝食用の皿の移動を始めた。
三人の少女。それは妻でも子供でもない。
ただはっきりと分かる事といえば、一つだけ。
彼女たちは、アイドルだ。
……故に、突如訪れた予想外の現実に俺はただ困惑する他なかったのであった。
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