6:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
2014/01/01(水) 20:35:14.56 ID:mMrPH74Do
しかし、見覚えのない音がすれば警戒するのは当然のこと。
俺はそっけない寝室に立てかけられていた捨てる予定の適当な棒を持ち出すと、そっとドアノブに手を開け、一気に開く―― !
「あ、おはよう、P。……って、なにしてるの?」
予想外の光景が広がっていた。
俺の借りているアパートは随分と質素なもので、狭いキッチンとダイニングが一部屋とその奥に寝室が一部屋というものだ。
その奥から俺がダイニングと呼ぶべきか迷うほどの部屋へと踏み込むと、なんと長い髪を軽く結った泉がそれを揺らしながらテーブルに食器を並べていたのである。
そしてその横ではさくらが乾いたテーブルを布巾で拭いており、後ろでは亜子が床をフローリングワイパーですいすいと動き回っていた。
その二人も、俺の情けない姿を見て朝の挨拶をする。いつもどおりの、元気な挨拶だ。
こちらも慌てて返事をするが、現状だけは理解できない。
硬直した脳みそを解凍させようにも、一向に理解が追いつかないのだ。
それほどに今の状況が非日常であり、現実には存在し得ないものだったからである。
しかし、そんな凝固した意識の中でも、ただ一つだけ放てた言葉がある。
……それは、どうしてここに居る、という言葉だった。
得も言えぬ、刹那程停止した間を砕いたのは、楽しそうにテーブルを拭いていたさくらだった。
「今日はプロデューサーさんがお休みだって聞いて、遊びに来たんでぇす!」
絡まり煩雑になった耳と意識をつなぐ線を必死に解いて咀嚼する。
要するに誰が俺の休日を彼女らに伝え、それを聞いた三人が俺の家に遊びに来た、ということだろうか。
なるほど、そうであれば現状にほどほど納得はいく。
彼女たち三人の顔に罪悪感は全くなく、侵入したという気概は感じられない。
ともすれば、気になる点は一体誰がそれを伝えたという点に尽きる。
さくらの返答から微かな笑い声を上げて亜子が今度はハンドワイパーで数少ない家具を撫で始めた時、俺は正解へ直球の質問を投げかけようとするが、すんでの所でそれを取りやめた。
彼女たちは別に悪事を企ててでここに居るわけではない。
伊達に三人と付き合っているのではないのだから、それぐらいはゆうに感じ取れる。
なのにそれをわざわざ責めるのは何だか憚られるのだ。
――第一、薄くはあるが心当たりがある。
俺の家を知っていて、かつ俺の知らぬ所で自由に出入りできる権限を持つ人物。
それを軽く察した時、俺はおもむろに部屋に戻って携帯電話を開いた。
後ろから何となく刺さる三人の不思議に思う視線を無視して、電話帳からとある人の名前を決定し、発信する。
ぷるるる、ぷるるる。ぷる――。
五コールもしない内に電話回線が開かれる。
言いたいことは一杯あるが、とりあえずは挨拶から始めようか。
会話の流れを順序立てて話そうとする俺を真っ向からぶった切るように、電話先の人はこう言った。
――びっくりしましたか、と。
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