過去ログ - ありす・イン・シンデレラワールド
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11:チョッキを着たウサギ
2014/01/11(土) 09:07:14.89 ID:Gcj069EQ0
「あははっ、それも何でかよく言われるんだよ」
ありすが深く息を吐いてそれと共に肩から力を抜いていく。脱力を自然と出来る自分に少しだけ驚きながら年上の男に何を言っても駄目そうなので一緒に踊ることを決めて鏡に映るちぐはぐな男女と向き合う。
二人は踊りながら、
「プロデューサーはどうしてアイドルプロデューサーになったんですか?」
ありすから声を掛けられて灯はいつもよりも声を弾ませて、
「実は別で就職先が決まってたんだけど『そっち』に行ったら何だか自分が今まで積み上げてきたものから逃避するように思えたんだ?」
二人は「ステップが逆です」や「ちょっと早いよ」と互いに声を掛けながらタブレットPCから流れてくる音楽に合わせてダンスを続けていく。灯の言葉がありすにとって意外であり頭に浮かんだ言葉がそのまま出てしまう。
「逃避ですか?」
「うん。妥協……かな? したくなかった。そんな時に樫木社長に声を掛けられたんだ。就職案内のパンフレットを持っていたから多分それを見て、声を掛けてきたんだと思う。
『ピンときた』って言われて最初は何が何だか分からなかったんだけど『夢を追う』って言葉に惹かれて慣れない背広に袖を通すことを決めた」
「『夢を追う』……ですか?」
「ああ……!」
ありすが灯の眼差しを見つめる。彼は今パネルミラーに映る自分たちを見ている訳でないと気付く少女は男の瞳を通してまだ遠い先のことに思いを馳せた。自分たちは同じ目標、同じ未来を目指していることに気付く。
「そしてキミに出逢った。そして、惚れた!」
灯が何の臆面もなく言い切りその声を受けた少女は硬直する、片足を上げたアンバランスな体勢で。当たり前にありすは背中を引っ張られる形で体を大きく後ろに傾ける。それを察知する灯は目を剥いて大きな手を必死に伸ばした。
灯の反応は素早く、彼の行動はありすが倒れるの食い止める。腕を掴んで本気で力を込めればぽっきりと折れてしまいそうな頼りなさを自分へと引き寄せると少女の軽い体は二人が思ったよりも浮き上がる。それをキャッチ、気付けばありすは灯に抱きかかえられていた。
「大丈夫? ありすちゃん」
「は、はい」
何が起きたのか分かっていないありすは相手の温もりを感じ取ることで不思議な浮翌遊感の正体にやっと気付いた。すると、ありすの体温がどんどん上がっていく。顔を赤くしてうつむくありすに灯は心配になって顔を覗き込む。
「本当に大丈夫?」
灯は声を掛けながら腰を下ろしてありすを自分の太ももに乗せて片腕を空けるとその手で相手の前髪を掻き分けて表情を覗いた。隠れていた小動物が見つかって焦る様をそのまま体現してありすは視線をさ迷わせる。その視線の先に回り込むと目が合い少女は目をギュッと閉じた。
相手の反応に合点のいかない灯は首を傾げながら、しょうがないと再びありすを両腕で抱きかかえるとパイプ椅子まで運んで座らせた。
「疲れちゃったのかな? 少し休んだら事務所に戻ろうか。今タブレットを持って来るね」
灯がありすから視線を外してパネルミラーに立てかけられているタブレットPCの元まで行こうとする。しかし、自分を引く小さな握力に気付いて足を止めて振り返った。そこには未だうつむいたままのありすがいた。
ありすの細腕が自分の服の端を持っているのを見て灯は口を開く。
「どうしたの?」
「…………」
声を掛けるとありすは灯の服を掴む力を強めた。そして、つっかえつっかえ――初めて出会った日と同じように――言葉を紡ぐ。
「……あの、『惚れた』……って」ありすは知りたいという思いと知ったら怖いという思いが交差して訊ねないといけない言葉を小さく言い、「どういう……意味ですか?」
「そのままの意味だよ」
思わずありすが灯から手を離してしまう。灯はありすと視線を合わせて向き合い、
「キミの歌に惚れた」
「へっ?」
青天井となっていた少女の体温がぴたりと上昇を止める。そんなことなど露知らず灯はぐっと拳を握りしめて力強く訴えかける。
「初めてキミの歌を聞いたときに一目惚れしたんだ。……って、あれ? 前にも言わなかったけ?」
灯とありすが思い出すのは病院の中庭で灯が述べたありすの歌への感想だった。少女の高翌揚が嘘のように冷たくなっていく。冷めた眼差しを向けられる灯が相手の名前を呼ぶ。
「ありすちゃん?」
「名前で呼ばないで!」
言葉と共に突き出されるようにして振られる平手。灯の頬を打つ快活な音がレッスンスタジオに心地よく反響する。そして頬に綺麗な紅葉を咲かせた灯は、
「えと……ごめんなさい」
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