過去ログ - ありす・イン・シンデレラワールド
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24:チョッキを着たウサギ
2014/01/11(土) 09:34:56.42 ID:Gcj069EQ0
今はまだ背伸びだと他人に笑われてしまうかもしれない。しかしこの相手に限ってはそれはないと確信する。自惚れ? 甘え? そうなのかもしれないが違うかもしれない。どんな言葉を使って検索すれば答えは出てくる? いえ、きっとそれは目に見えるものじゃないから……
「プロデューサー」
「なんだい?」
灯が視線を下げる。そこには見慣れた少女の顔があった。ありすはコートのポケットからある物を取り出して相手に見せる。見せられた物に灯は静かに驚いた。就職祝いで姉に買ってもらって初出社の日に壊した腕時計だったのだ。
だが、それはどこも壊れていなかった。静かにだが確かに時を刻んでいる。
「あの……修理業者を探して直してもらいました。受け取ってもらえませんか?」
言葉にせずに灯は呆けたような顔でありすから腕時計を受け取る。少女の温もりに触れて人肌ほどに温められたそれを見ると黙ってしまう。そんな反応にありすは怯えてしまう。
直したことによって壊れてしまうことがあるんじゃないかと不安に思う。しかし、ありすを不安にさせる男が彼女から不安を取り除く。不思議な関係だった、彼女らは。
「ありがとう。そっか、ありすちゃんに渡してそのままだったんだね。こういう形で戻ってくるとは思ってなかった」灯は代わりに付けていた安物の腕時計を外してありすから受け取ったそれを手首に巻く。相手に見せて「この腕時計はこれから本当の意味で動き出すんだよね。まるで俺たちみたいだ。ここからキミと一緒に時を刻んでいこう」
これではプロポーズ、ありすがハートを射貫かれたようにふわりと体を傾けた。それを男が受け止めた時だった、教会の鐘の音が聞こえてきたのは。
祝福の鐘の音だ。世界は静寂とはほど遠く、しかし今だけは厳かな鐘の声だけが二人へと降り注ぐようだった。これから暗闇が訪れるも二人にとってそれは大した問題ではなかった。何故ならば朝は絶対にまたやって来る。世界も自分たちもこれからどのようにも変わっていける、また鐘の音は降ってきてくれるのだから。
灯は言う、「大丈夫」と。
ありすはそれに答えて微笑んでみせる。不思議の国へと舞い込んだ"ありす"は一人ではない。隣にはいつだって自分を見てくれる勇敢な男がいる、誰よりも自分を信頼してくれるからこそ私はそれに応えてあなたを信じる。少女の歌も笑顔もその証であった。
やっとスタートに来た少女と男は遠く果てしないゴールへと共に歩んでいくのだった。
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