19:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
2014/01/28(火) 22:57:24.83 ID:4dDXRU7No
無責任。そう、無責任だ。
背負うべき物を背負わず、他者の運搬を待つだけの存在。
そして一度背負った物を落としてしまうのも、ある種の無責任なのだろう。
そういう意味では、俺は無責任である。
翠は、恋慕が求める快感を肉体的接触からいつしか時間や状況などの精神的接触へと変化させていった。
仕事である以上それは仕方のないことで、立場上大人なのだから制限されているという状況には少なからず納得しなくてはいけない。
だが、何も全てを締め切らなくてもいいのではないだろうか。
ゼロかイチ、そのどちらかで済まされるのはデジタル世界であって、この世界では必ずしも良しとはされない。
感情の機微、自由の度合い、そういった物がこの世界ではコンマとして表現されているのだ。
もしかしたら、翠は今――いや、かねてから、こういう二人の時間には昔に戻ったような事をしたいと思っていたのかもしれない。
何気ない時間を手を繋いで共有したい。学園祭の時、髪を撫でられる事で最初に感じた喜びを、今なお感じたい。
――翠は、過去から今へと続く原始的欲求を社会的責任という壁で塞いでいるのだとしたら。
だとすれば、彼女はその純粋な欲望を押さえつけたまま現在に至っていることになる。
それはよくない事だ。
思っていることや感じていることを言わなければ、やらなければ、人はいつか壊れる。
そうさせないために、俺はかつて『我儘は信頼だ』と言った。
しかしそれが実現できない今、新たにまた許可をしなければならない。
だから、昔の俺をなぞっていた筆先を、ふとずらしてみる事にした。
「俺は、翠のことが好きだぞ」
「――っ!」
不意をついて、俺は翠をまっすぐと見つめる。
予想通り彼女は肩を小さく跳ねさせ目をぱちくりとさせて口を小さく開いていた。
いくら大人になれども、そういう所は翠らしいというべきか。
「仕事で忙しいけど休みはこうやって一緒にいる訳だし、ここは事務所でもないしなあ」
責任を曖昧にしてしまうことや、立場を崩してしまうことは当然よろしくない。
……それでも、背負ったり降ろしたり、上ったり降りたりすることぐらいは、許されてもいいだろう?
「だから……もっと近づいてもいいか?」
体ごと翠に向けて、俺は手を伸ばす。
――所在のないその手に、そっと翠の美しい手が触れた。
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