過去ログ - モバP「赤色の恋心」
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22:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
2014/01/28(火) 23:02:09.55 ID:4dDXRU7No


「昔に戻ったみたいだ」
 この静寂は何となく昔を想起させる。
 現在が賑やかになってきているからこそ、それは鮮やかに思い出された。

 かつての事務所。人の行き来など滅多にない、寂れた事務所。
 そんな小さな世界で幾千も幾万も顔を合わせて思いを交わした日々が、とても昔のように思える。


「……今日はPさんも私も、昔に戻るばかりですね」
 夕日に背を向け、翠は苦笑する。まるで後光が指しているかのような暖かな笑顔だ。

「最近はずっと前ばかり見ていたんだからたまにはいいだろう。翠もそう思わないか?」
 経年による汚れが目立つものの、日々の掃除の甲斐あって床は比較的綺麗になっている。
 その床を小気味よく鳴らして、俺は翠の傍に近づいた。

 彼女はそんな俺の質問に唯一つ、意地悪ですね、と笑ってみせる。
 おどけるようにして揺れる翠の髪が、夕日をキラキラと輝かせていた。

 ゆっくりと近づいて横に並んだ俺達は、改めて二人で夕日を見る。
 オレンジよりも赤と表現すべきだと思う位に、その陽は圧倒的に空を覆い尽くしていた。

 そんな色に当たっていると、不意に言葉が思い浮かんできた。

「翠は……昔のほうが好きか?」
 くだらない質問だ。
 今を感じて精一杯生きている者に昔と優劣を比較させても意味はない。

 昔には昔、今には今の良さがあるのだ。
 彼女もそれは十分わかっているようで、俺の考えと同じことを静かに答えた。
「……昔のほうが良かったこともありますが、今だって、こうしてPさんと話せる事がずっと楽しくなりましたから」

 本当に大切なものは失くしてから気づくもの、とはよく言ったものだ。
 やはり翠自身の感覚として、あの時のようなハリネズミも羨む距離にただならぬ価値を感じていたのだろう。

 今日俺の部屋で手を繋いでからは、まるで過去に戻ったかのような子供らしい姿が見かけられたからだ。

 そういう意味では、今現在の自分や環境に不満を抱いていたとしてもおかしくはない。





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