23:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします
2014/01/28(火) 23:03:21.52 ID:4dDXRU7No
しかし、昔には戻れない。
例え戻ったとしてもそれは昔の形をした未来であり、それとは似て非なるものなのである。
ではどうすればいいのだろう。
昔に微かな郷愁を感じ、深い所で羨望を抱くのは果たして間違いなのだろうか。
いや、俺はそう思わない。
昔と今には、それぞれ良さがあるのだと先ほど思った言葉を心で復唱する。
つまり翠がそう感じているのなら、俺の方から彼女が思っている以上の今の良さを覚えてもらえればいいのだ。
過去を忘れてはいけない。しかし、過去の全てを体に縛り付けてはいけない。
引きずるのではなく、それを手にとって歩む事が未来への一歩になるのである。
「……翠」
かつての翠は、俺の手を望んだ。一切の引っ掛かりのない髪をさらさらと撫でることで、彼女は何よりも幸せを感じてくれた。
「はい」
だからといって、今も同じことをすれば良い訳ではない。
全ては必ず変化する。必ず何かが変わっていく。
それでも大事な物を変わらせないために、何にも纏われない、裸の思いだけは強く抱き続けるのだ。
俺はすぐ隣にある窓のカーテンを閉める。
明かりは夕日に頼っていたため、それが遮られた事務所は薄暗くなってしまうが、翠の視線はしっかりと俺を見据えていた。
――以心伝心とは最高の状態だが、まだまだそれには及びそうにない。
しかし、互いが視線を重ねあわせているこの瞬間だけは繋がっているのだと確信した。
「……来てくれますか」
「もちろん」
静寂の中、彼女はそっと腕を広げると、俺は歩み寄り……体を重ねた。
いつかの昔では絶対に出来なかったことも、今なら許される。
そして離れていたからこそ、微かな時間が最高のものになるのだ。
暖かい、という胸元でささやかれた赤色の恋心は、ゆるやかに反響して俺に伝わったのであった。
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