16:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/02(日) 20:45:23.71 ID:bEFC5GTXo
先生は暇なときは私の練習を見に来た。時々、忙しくて来られないこともあったけど、
歌は職員室でしっかり聴いていると言っていた。
先生が練習を見に来ている時、今まで通り気分で選曲して歌う他に先生のリクエストを受けることもあった。
ちょっと前なら、鬱陶しいのであっち行ってください、くらい言っただろうけど。
「すごいよ。お金取れるレベルだ」
ELP版の"展覧会の絵"をリクエストで歌った時、先生は眼を輝かせて言った。
興奮気味に溜息をついて。
先生はお世辞とかじゃなくって、本当に心からそう言ってくれる。だから困るのだ。
「千早の歌、評判いいよ? そのうちさ、先生相手に歌ってくれないかって」
「それはちょっと」
「……千早は将来さ、歌手になるとかって考えてないのか?」
「どうしたんです、急に」
以前に、何のために歌を練習するのか、と訊かれた時、私は分からないと答えた。
実際、分からないのだけど、歌手になることはよく考えることではあった。
ただ、歌手になるために練習するのかと言われると、違う気がした。
「よく考えます、けど」
「オーディションとかは?」
「受けたことないです」
私は、はぁ、と溜息をついて、髪を指先でくるくるとねじった。
私はオーディションにちょっとした怖れというか緊張を感じていた。
「俺は十分通用すると思うけど」
先生は私の緊張を見抜いていたらしい。
「……私、本格的に練習し始めたの、ここ数年で。それこそ、付け焼刃みたいな技量で挑んでも」
「技量じゃなくて、俺、千早の声が良いと思ったから」
思いがけない言葉に、カァッと首筋に血が上って頬が熱くなる。
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