17:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/02(日) 20:46:19.73 ID:bEFC5GTXo
「こ、声ですか」
「うん。どうした。顔が赤いけど」
先生は苦笑いして、私の赤面を指摘した。
「……声、褒められたの初めてで」
「そうなのか?」
「上手、とかはよく言われるんですけど」
嫌味じゃないですよ、と付け足す。
どちらかといえばうんざりしているのだ。誰だってちょっと練習すればできることなのに。
「千早の声は、才能だと思うよ」
「まだ、まだ、って言ってるうちに枯れてしまうんでしょうか」
少し自嘲気味に言う。先生はそれは分からない、と神妙な顔で言った。
暫く、互いに黙っていた。踊り場を覆う静けさが、風によじれた。
「私、男の子に生まれたかった」
ポツリ、と言って、私ははっとなった。無意識のうちに零れてしまった言葉を手繰り寄せ、
自分の胸の内を覗いたような気分になる。
男の子なら。ふぅ、と溜息をつく。
「男の人って羨ましい。声も才能も私の想像のつかないところにあるから」
「俺は……」
俺は、と言いかけて止めたのは賢明だった。先生と私を比べても何も意味はない。
「男尊女卑とか、そういうんじゃないんです。もっと根本的な」
「……分かってるよ。でも、羨むことない。女性には、千早にはまた違う才能が宿ってる」
「違うから、羨むんです。どうしようもないですね、すみません」
気にしてない風を装って笑みを作っても、先生は笑ってくれなかった。
これ以上続けると、自分の中にわだかまっているものが顔を覗かせそうだった。
「私、オーディション、受けてみようと思います」
決意を口にする。先生は私の肩に手を置いて、無言で頷いた。私は同じように無言で頷き返した。
静けさが沈殿する踊り場に私たちは埋もれていた。
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