9:以下、2013年にかわりまして2014年がお送りします[saga]
2014/03/05(水) 00:47:50.56 ID:kVbbRwGOo
もう一度手を伸ばしてみた。
脚だけでなく腕のリーチも短い私は、
自分で引いた国境線さえ突き破れないのを知った。
夏の盛りをとうに過ぎて、
ため息のように熱の抜けた弱い風さえ吹き始めた頃だ。
明るくて暗ったるい寝ぼけたような空の下で、
たまに頭上の葉がかさかさと音を立てて揺れたりして、
水飲み場の蛇口がまだ鈍く光っている。
廃品回収の車のアナウンスが遠く聞こえて、近づくことなく消えていった。
現実感のなさを感じながら、
けれども指でなぞってみたベンチの塗装はざらざらと剥がれかけているようで、
爪でひっかけて破片をつまんでみたりする。
見下ろした指先は赤茶けた色に汚れていて、指紋が目立たないほどだ。
汚れた人差し指をもう一方の手にとって、親指でそっとなぞってみた。
そんな風にして、あの人がいつだか私の小さな指をなぞったのを思い出す。
この指はすでに数え切れないほどあの人に触れてきた。
けれど私のすきな人は触れる度に形を変えるから、どこまで深く近づいても水のようにつかめない。
きらきらと水しぶきが撥ねて指先にぴりりと染み込み、
その小さな痛みがいとおしくて傷口を何度も撫でるような、
そんな大切な苦しみをたくさんもらった。
いま、
人差し指のささくれに気づいてしまって、
汚れた指を舐めるわけにもいかず、ちくちくといじって痛みをもてあそびながら、
こんな気持ち誰にも伝わらないんだろうなって息を大きく吐き出した。
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