68:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/06/04(水) 15:04:21.75 ID:rnKh21gDO
馬「ひひーん!」
御者「落ち着け! このっ!!」
前足を高く掲げていななく馬を、御者が必死に手綱を繰って落ち着かせようとする。
アルラ7「あわわ……」
振り下ろされる馬蹄がすぐ身近の地面を叩く。
Bパーツの中のアルラウネは恐々と身を縮め、嵐が過ぎるのを待つ心持ちだった。
しかし嵐は収まらず、そうこうしているうちに新たな騒動の種が飛び込んで来た。
商人「何をやってる間抜け!」
手間取る御者のすぐ後ろ、左右から閉じていた馬車の幌がおもむろに開かれる。
青白い月明かりの下、丸々と肥えた商人がのっそりと馬車の奥から歩み出て来た。
狼狽した御者はやつれた顔に媚びるような卑屈な笑みを張り付け、ペコペコと何度も商人に頭を下げる。
御者「す、すいません。馬の前に何か変な物が飛び出して来まして……」
商人「変な物? 変な物って何だ?」
御者「えっと……、小さくて、何か叫んでいたような……」
商人「バカな言い訳をするな! どうせ居眠りでもしていたのだろう!」
御者「いえ、その……、確かに何かが……」
商人「まったく、これだからグズなヤツは……ぶつぶつ……」
ふんぞり返る商人。
すでに御者の言うことを聞くだけ無駄だと決め込んで無視している。
そんな商人の姿に御者は卑屈な笑みを痛々しく歪め、それでも商人の機嫌を害せぬようやんわりと意見した。
御者「あの、ところで大事を取って今日はもう休みませんか?
夜に馬を動かして事故を起こしては元も子もありません。
現に、半年前に御主人様のお兄様はここらの事故で……」
商人「オレを兄と一緒にするな!
それに見てみろ! 空には輝かしき月が浮かんでいる!
我らの進む道は闇夜に晧々と浮かび上がっているぞ!」
兄という単語を聞いた途端、商人は激昂して声を張り上げる。
そして舞台俳優のように芝居掛かった動きで大振りに腕を広げると、空に浮かぶ月を指差して御者に語って見せた。
見るものが見れば、何かしら惹き付けられる物があるかもしれない。
ただ、内実を知っている御者には商人の姿が滑稽な道化にしか見えなかった。
この商人は、地方でちょっとは名の知れた商館の長の息子だった。
しかし世情に疎く、器量も無く、一言で断ずるに無能そのもの。
長の父が病床に伏せると、とにもかくにも跡目欲しさに、同じく才気の欠片も無い兄と一二をめぐって争う始末。
そんな子供らを見て、聡い父は、血こそ繋がって無いが有能な部下の一人に商館の跡をひっそりと託した。
新しい長は優秀だった。
おだて、持ち上げ、言いくるめ、無能な商人兄弟を商館から遠ざけて雑用に回した。
やがて兄が事故で死に、弟は全てが手に入ると喜んだ。
それから現在、弟――もとい、御者の主であるこの商人は、いつか商館の長になれると信じて延々雑用を続けている。
知らぬは本人のみだった。
御者「……いや、そんなヤツの下にしか着けない自分も自分、か」
商人「……? 何かいったか?」
御者「いえ、別に」
商人「なら早く進め、グズが」
馬を潰す夜道の危険性も知らない温室育ちらしい無謀な命令。
しかし御者は反論の術を知らない。
御者はあくまで従者だ。
出来る事と言えば、主に気付かれぬよう顔を俯けて小さく嘆息するくらいだった。
86Res/99.94 KB
↑[8] 前[4] 次[6]
板[3] 1-[1] l20
このスレッドは過去ログ倉庫に格納されています。
もう書き込みできません。