過去ログ - 穏乃「麻雀に、おかしなことはつきものだ」
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29: ◆k1tEJoGb4VEz[saga]
2014/04/07(月) 03:07:07.21 ID:zgg3Dg+D0

   04

 春休みのことである。
 私は吸血鬼に襲われた。

 二十一世紀現在。科学が止め処なく発展し、オカルトの存在が虚妄の産物と言われるようなこの時代。
 そんな時代に、恥ずかしくて外も歩けないような事実だけれども、兎に角、私は吸血鬼に襲われたのだ。

 聖者のように美しく、死者のように儚げな鬼だった。

 姿だけをみると、私と同い年くらいに見える。が、私ごときと同列に扱うなんて失礼極まりない。
 彼女は、何百何千という永劫の時を生き永らえてきたのだから。
 年功序列、というわけじゃないけれど。
 私にとって、敬わなければならない存在であるのは、間違えようもなかった。

 そして。
 そんなとんでもない、とても口先の言葉だけでは表せないような存在に襲われた私は、結果として吸血鬼もどきになってしまったの

だ。
 日光も十字架も大蒜も平気な、それでいて人間離れした力を持つ、中途半端な存在に。

 だがそれは、私個人の話であって、憧にとってはどうでもいいことだろう。
 私が彼女の手助けをする上で重要なのは、彼女の現状に対する理解と、私が人間から少し離れた位置にいるということだけだ。



 私は憧の手を引いて、吉水神社から連れ出した。
 ……こう言えば聞こえはかっこいいが、端的に言えばただの誘拐である。
 望さんには本当に申し訳ない。でも、こうでもしないと憧を連れ出すことはできなかっただろう。
 後から首を折る勢いで謝るつもりだから、今は許してほしい。

 憧を着替えさせる暇はなかったので、彼女は今、巫女服の上にパーカーを羽織るという何とも前衛的な格好である。
 具体的には和服の上に革ジャンを着るくらい前衛的。
 まあ誰とはいわないけど、痴女みたいな恰好をしていても職務質問を受けないくらいの在郷だから、大丈夫だろう、多分。
 似合ってるし、巫女服パーカー。
 
 暫く走って、私は目についた金峯山寺の前あたりで一度立ち止まることにした。

「大丈夫か? 憧」

 繋いだ手をそのままに私は振り向くと、憧は涙を拭いつつ、物凄い剣幕でメモ帳にペンを走らせていた。
 そして、叩きつけるようにそれを私に見せる。

【大丈夫じゃないわよこの体力バカ! アンタに引っ張られても着いていけるわけないでしょ!】

「あ……」

 そうだ。言われて気がついた。
 私と憧は幼いころ、一緒にこの辺りを駆けまわっていたのだから、私についてこれるだろうと踏んでいたが、違う。
 今の私は吸血鬼もどきと化していて、少しとはいえ身体能力も人間のそれを上回っているんだ。
 それに、今の憧は全く本調子ではないということも、考慮しなければならない。

「……ごめん、少し早計だったよ」

 謝って、手を離す。
 すると憧は少しだけ悲しそうな顔をした……気がする。
 いや、ずっと涙を流しているから、そう見えただけだろうか。



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