過去ログ - モバP「見えた今に絶えぬ未来を」
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3:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/04/22(火) 22:42:33.21 ID:dbLyof+Po


 ドアノブを握ったまま、数秒。
 何かを考えこむように――何も考えられず、ただ何を言えばいいのか、といったどうしようもないことを暗澹とした脳内に滞留させる。

 そう、どうしようもないのだ。どうしようもないから悩んでしまうのである。

 目の前の悩みから逃げれば明日はなく、背後からくる不安から逃げなければ明日はない。
 ゆっくり、ゆっくりと、音が鳴らないように手首をひねってドアを開けると――見慣れた後ろ姿が大きな窓から外を眺めていた。

 ゆらゆらとゆれることもなく、ふりふりと裾が舞うこともなく、ただぽつんと、一人ぼっちの少女が空を仰いでいたのである。


 何と声をかければ良いのか、彼女の後ろ姿を目にして再度足が止まってしまう。
 何を言おうとも変わらないのに、せめて最良の結果になるように導こうとして唇が頑なに行動を拒否した。

 長い髪を後ろで結って、真っ直ぐ腰まで下ろす綺麗な髪。
 決して華々しく見せびらかすこともなく、ただ見る者を自然に惹きつける表情の持ち主。


「……あ。おはようございます」
 ビルだって大通りに面していれば騒音はそれなりにある。
 大した音は見せなかったはずなのに、それでも彼女はいともたやすく俺に気づいたのだ。
 始めから来ることなどわかっていたかのように振り向くと、わざわざ腰を折って挨拶をしてくれた。

 俺が最初に出会い、そして切れること無く共に歴史を繋いできたアイドル。

「……おはよう、翠」
 真っ直ぐな視線を向ける水野翠が、そこにいた。




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