過去ログ - モバP「見えた今に絶えぬ未来を」
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5:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします
2014/04/22(火) 22:46:34.00 ID:dbLyof+Po


「どうかしましたか?」
 いつもと変わらない飾り気のない声色に意識を取り戻す。
 彼女の姿を見てたじろいでいたのだろうか、普段通りでないと彼女は問う。
 決してつんざくような音を出さず、静かにゆったりとした声で話す彼女の姿は、平常時と何ら変わっていないように思えた。

「……いや、なんでもない」
 彼女は何も考えていないのだろうか。
 多かれ少なかれ、選抜されなかったことに落胆しているものだと思っていたのだが、存外彼女の瞳はいつものように俺を真っ直ぐ見つめていた。
 放送終了後、翠から連絡はなかったし、俺の方から連絡するのも何だか憚れるように思えて、総選挙のことをまだ話してはいない。
 昨日のあの時から、彼女の顔を見るのも声を聞くのも今が初めてである。

「ふふ、もしかして夜更かしでもしていらしたのでしょうか?」
「かもしれないな」
 反応が悪いのを睡眠不足と捉え、口元に小さな手を当てて翠が微笑む。静かに漂っていた彼女の後ろ髪が、表情に反応してきらきらと揺れた。

「何を見てたんだ?」
 翠がこちらを振り向く前、彼女は雲ひとつ無い空を見上げていた。
 この事務所は巨大という程でもないものの、それなりの大きさのビルのテナントを借りている。
 それは彼女を始めここに所属する全員の尽力があってこその賜物である。
 一番初めの時に比べれば、雲泥の差と言っても過言ではない。
「特に意味は。変でしたか?」
 変、というものではない。
 暇な時にふと空を見上げる行為が変だとするなら、全人類はもれなく変人である。

「今はいい天気だから見たくもなるか……」
 そう言うとおもむろに俺は翠の隣へ行き、窓越しの空を見上げる。
 雲ひとつ無いそれは遥か下の俺たちを見下ろし、何となく無に還してくれるような気がした。




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