過去ログ - とある科学の合成合唱<カンタータ>
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12:黄金色の雨のごとく  ◆wapTtVzPxk[sage saga]
2014/04/25(金) 21:29:33.42 ID:tU3kNuw60


 歌がきこえた気がした。




 長い間捜していた人が手を伸ばせば届きそうなところにいる。そう、最終信号は思った。今まで自分は眠っていたのか記憶を遡れないが、またこの人が助けてくれたのだろうと状況を把握する。
 いつも強がってばかりいた人が、立っていることもできないのか真っ白な雪の中に膝をついていた。

「……大、丈夫……? ってミサカはミサカは尋ねてみたり」

 久々に出しただろう声は自分で思っていたほどひどくはなかった。手を伸ばそうと動かない体を叱咤する前に、ところどころ赤く染まった腕が伸びてきた。

「……良かった……」

 小さな体を抱きしめる腕が、声が震えていた。最終信号はどうにか手を伸ばして彼の背に回した。今この瞬間に彼が感じてくれたことも、彼から手を伸ばしたくれたという事実も、全てを逃さぬように引き留めたかった。

 しかしどんなに願ったところで時は止まってはくれない。

 空に黄金の光が集まり、大地へ降り注ごうとしている。賛美歌のような音が絶えず鳴り響いているが、最終信号にはそれが救いの音楽には聞こえなかった。体の中に、まだ彼女のためだけの救いの歌が残っている気がした。その残響だけが、神々しいとすら思える唯一の音だった。

 この人は行ってしまうだろう、と最終信号は漠然と思った。彼女が起きるまでに何があったかを知らずとも、空を睨みつける人の背から真っ黒な翼が見えて、それで彼女は別れを悟った。

「嫌だよ。ずっと一緒にいたいよ、ってミサカはミサカはお願いしてみる」

 黄金色の雨を止めることもできず、彼を止めることもできない自分に焦燥感ばかりが募った。すがりついた指が優しく剥がされていく。

「……そォだな」

 今なのか、と最終信号は心の中で叫んだ。初めて一方通行の声を聴いた日に他でもない自分に誓ったことが、今こんなところで果たされてしまうのか。

「俺も、ずっと一緒にいたかった」

 漆黒の翼が純白に変わる。周囲の雪を反射してキラキラと輝きながら、それは雪とは違って彼女のもとに降りてきてはくれなかった。


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 一方通行が見えなくなっても手を下ろさない最終信号に、それまで黙っていた番外個体が告げる。

「今生の別れみたいな余韻に浸ってるとこ悪いんだけどさぁ」

 振り返ったアホ毛の少女を見下ろして、ナンバリングでは唯一の妹にあたる少女が小馬鹿にしたように笑った。





「こんな分かりやすい死亡フラグは折るしかないでしょ」





 直後、地上八〇〇〇メートルで黄金の光が爆発した。





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