過去ログ - とある科学の合成合唱<カンタータ>
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24:最初の調べ  ◆wapTtVzPxk[sage saga]
2014/04/27(日) 01:20:18.14 ID:V8JaUPtD0

 昔バカラシというところに女がひとり住んでいた。
 近くを通る男たちをひとり残さず恋死させた。

 神父様が裁きの庭に彼女を呼び出しなされたが
 あまりにも美しい声で話すので調べずに放免なされた。

「私いきるのがもう嫌になりました。私の声を聞いた人は、ただそれだけで死にました」

 神父様は彼女にために祈られた。喉を焼こうとした。どんな手段を使っても、彼女の声を奪えなかった。

「私を殺してください。もう誰とも話すことはできないのですから」

 神父様は彼女を塔に閉じ込めた。それでもそこに彼女がいるだけで、みな足を止めてしまった。

 そうしてどのくらいの月日が過ぎたか、彼女は塔から追い出された。
 神父様は彼女を連れ立って街道筋を進み、切り立った岩上からライン川を指差した。

「愛しいローレライ、私はお前を神の国に送ることさえできない」

 女は神父様をまじまじと見つめた。数年ぶりに人間の顔を見た。そしてもう数百年は見ることはなかった。

「神父様、あなたは笑ってらっしゃいます」




 女は消えた。しばらくすると船頭たちのあいだで奇妙な噂が流れた。

 ――あの海で女の声を聴くと生きては戻れない。




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 ハンバーガーを食べ終えて、雷神トールと名乗る少年はホットコーヒーとチーズケーキを追加注文してきた。

「まだ終わってねえんだ」

「……何だって?」

「魔女狩り全盛期の中世ヨーロッパのど真ん中でどんな裁きを受けることもなかったローレライは、時間の流れも受け付けなかったらしい。そして、そいつは十中八九、この楽演都市にいる」

 誰の声も届かない場所。何の音も漏らさない場所。雷神トールは一つの場所を口にした。

「窓のないビル。そこに、あの女……フロイライン=クロイトゥーネは幽閉されてる」






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