過去ログ - とある科学の合成合唱<カンタータ>
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3:おしゃべりはやめて、お静かに ◆wapTtVzPxk[sage saga]
2014/04/25(金) 21:21:09.13 ID:tU3kNuw60
「――でしょ? じゃあやっぱり」
「もう、佐天さんったら――」
「何の話してるの?」
休日のファミレスで彼女たちは待ち合わせをしていた。美琴と黒子が花瓶のような頭を見つけたとき、制服に風紀委員の腕章をつけた少女と活発そうな私服を着た少女は何やら盛り上がっていた。
「あ、御坂さん! 都市伝説ですよ、楽演都市の」
「都市伝説?」
非科学的なと心で思うに留めた美琴の横で「何をばかなことを」と黒子が鼻で笑った。
「おかしな噂に振り回されてもろくなことはありませんわよ。どうせそんなものは暇を持て余した方か悪事を隠蔽したい輩が流したものでしょう」
「白井さんは夢が無いなあ。この街のどこかに始まりのローレライがいるなんて素敵じゃないですかー」
「実在する人物に関するおどろおどろしい噂もありますけどね……」
ちらりと初春が美琴をうかがう。「その人の歌を聴くと洗脳されちゃうとか」
「食蜂のことなら八割本当と思ってもらっていいわ。CDはともかく本人は普段からとりまきで遊んでばっかのやつだから」
本当なんだー、と佐天が他人事の気軽さで言う手元でグラスの氷が音を立てた。隣の初春のグラスの氷が融けていないのは彼女の能力によるものだろう。鼻歌を口ずさんでいる間、初春が触れている物の温度は一定に保たれる。レベルは低いが便利な能力だ。
街は常に歌で満たされている。スキルアウトのたむろする路地裏の奥深くでもないかぎり、商店街のスピーカーは学生の精神を安定させるため(という建前)の歌を流し続けるし、何らかの能力を行使しようと歌を紡ぐ学生がそこかしこにいる。草木も眠る丑三つ時であろうと、この街で歌が非難されることはない。眠るときは支給された耳栓の着用が推奨されている。
「そういえば、この世に存在しない音を出す人とか歌わない能力者って噂もありましたねー」
「歌わないのに能力者?」
「はい、喋ったりもしないそうですよ。その人の周りでは不思議なことが起きるんです。声が跳ね返るとか、光が乱反射するとか」
「反響版か鏡ででも出来てるんですの?」
黒子が茶化すが佐天は気にも留めない。
「ちゃんと人間の話ですよお。あ、でも鏡とかじゃないですけど噂によれば真っ白な人だそうですよ」
ますます胡散臭いなぁと美琴は思うが口には出さない。新しくできたレベル0の友人との距離の取り方を模索中なのだ。
「御坂さんのクローンって話もありましたよね?」
既知の冗談を口にするように、少し困り顔で初春が引き合いに出したのは美琴も最近よく聞くようになった噂だ。ばかばかしいと会話に加わろうともしない黒子に佐天が絡んでいく。
「白井さんは嬉しいんじゃないですかー? 御坂さんがもう一人いたら」
「……!! お姉様が」
「ちょっと白井さん……佐天さんも面白がらないでくださいよ」
「クローンねえ……」
能力開発の空き時間に片手間で習っているヴァイオリンのことや、昨日の授業中に起きたちょっとしたハプニング、そんな平穏な日常のどれを話題にしたら楽しいだろうか。面白おかしく話す順序を考えながら美琴は言った。
「やっぱり私と同じ顔がいたら気持ち悪いって思うんじゃないかな――」
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「『実験』の開始まで後四分ですが、準備は整っているのですか、とミサカは確認を取ります。……確認を取っています。その缶珈琲は後二分以内に飲みきることをミサカは推奨します。コーヒー中毒ですか、日に三度のコーヒーを欠かせば苦しさのあまり干涸びた山羊肉のように萎んでしまうのですか、とミサカは喜劇の一節を引用します。無言は実験に支障が無いという意思表示と見なしますよ、とミサカは勧告します。『実験』開始まで後一分五〇秒です、いいかげんにその缶珈琲をぅあてっ――空き缶を投げないでください、とミサカは注意します。実験内容に支障をきたす可能性をミサカは危惧します。機嫌が悪いと推測される表情になっていますが、怒りたいのはゴミ箱代わりにされたミサカの方です、とミサカは被験者の理不尽を責めます。実験にはもっと真摯な態度で臨んでくださいとミサカは希望します。午前九時二十九分、四十五秒、四十六秒、四十七秒――これより第七九八九次実験を開始します、被験者一方通行は所定の位置に着いて待機してください、とミサカは伝令します」
《死ぬ前に言うのがそれかァ? ちっとは何か考えたり……もうイイか。出来損ない》
妹達と呼ばれる軍用クローンと第一位を冠する少年は既に八〇〇〇回近く対面し実験を行っているが、彼女らは誰一人として彼の声を聴いたことがない。少年の薄い唇が言葉を紡いでいるのは分かるのだが、実際に彼女らの耳に届くのは彼女ら自身の声なのだ。まるで自分の発した声が自分を食い荒らしにきたように。
少女の地獄が始まり、終わりの門が開放される。
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