過去ログ - ウートガルザロキ「フィアンマちゃんは、俺の」
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263: ◆2/3UkhVg4u1D[saga]
2015/03/22(日) 18:29:08.28 ID:NZilbXKJ0

『グレムリン』メンバー居住地を転々としながら、ウートガルザロキは現在沈黙していた。
見た目に気を遣っているのは幼い頃から変わらないのだが、目の下の隈は隠しきれない。
精神的な問題で、ウートガルザロキは不眠症になりつつあった。
まったく眠れない訳ではないのだが、眠る度に悪夢を見ては跳ね起きる。

(ぬるい………ま、飲まないよりかマシだよね。寝るとロクな夢見らんねーし)

静かにカフェオレを啜りながら一人、ウートガルザロキはカフェの窓の外を見つめた。
雪が降っているのは明らかで、もう一杯おかわりしようかと考えた。
生憎傘は持ってきていないし、魔術を使って寒さを防ぐのも億劫だ。
24時間営業のカフェは客が少ない。何しろ深夜だ。
店員は退屈そうに談笑しつつ客の注文に応えているし、店内には静かなクラシック音楽が流れている。
ウートガルザロキが扱う術式は幻術専門(稀に例外はある)なので、当然音楽についてもある程度の教養の持ち合わせがある。
独学故に、現在流れている音楽が何なのかはわからなかったが。

(良い曲だな)

ピアノの穏やかな伴奏と、時折激しさと悲しさを伴ったバイオリンの旋律。
思うがままカフェオレのおかわりをして再び席につき、ウートガルザロキはその音に耳を傾けた。

(……フィアンマちゃんってどういう曲好きなんだろ?)

聞いたことないな、ふと思いながらマグカップの持ち手に指先を絡ませ。
それから、聞きに行く勇気はないのだと思い直した。
彼女はもう、トールのものだ。そうであるべきなのだと思う。
フィアンマにも、トールにも、気持ちの整理がつくまで二人には会いたくない。
酷い事を言ってしまいそうだった。

(女々し過ぎる)

自身を冷静に判断しながら、ため息を飲み込む。
望んでいた状況のはずだ、と何度だって自分に言い聞かせる。
カフェオレの水面に映る表情は、暗い。

「相席いいですか」
「ん、はいどうぞ……!!」
「よお。こんな夜更けに一人でお茶か? 寂しいもんだな」

客数が少ないにも関わらず、相席。
不可解に思って顔を上げると、先程挙げた会いたくない人物の内、後者が向かい側に腰掛けていた。

「……リーダーはカウンセラーもやんの? 大変じゃね?」
「そういうんじゃねえよ。俺もコーヒー飲みにきただけだ」
「へえ。ここ悪くないよ。苦くないし」

へらへらと笑って世間話を提示し、ウートガルザロキはカフェオレを飲む。
トールはいつの間に購入してきたのか、彼自身の分のコーヒーの紙カップを手にしている。
いたって普通の、平然とした態度で接してきている。

勝者の余裕。

ふと、そんな単語を思い浮かべ、心中で首を横に強く振る。
そんな男ではないと、とうにわかっている。

吹っ切らなければならなかった。

そして、そのための質問は頭に浮かんでいる。

「フィアンマちゃんは、どうしてる?」
「知りたいか? 部屋に戻れば一発だと思うがね」
「放浪したい気分だからまだちょっとね。何もないならいいよ」
「そうかい。………何もなくはねえけど」

引っかかる言い方をしながらも、トールは詳細を語らずにコーヒーを飲む。
焦った様子がみられない。緊急事態ではないのだろうとウートガルザロキは判断した。

「それで、うまくやってる?」
「あん? 何が」
「フィアンマちゃんと、トール」
「は? 俺とフィアンマちゃんが何を?」
「何って、決まってんだろ? 逆に何で聞き返すんだよ」

どうも会話が噛み合わない。
隠そうとしているのだろうか、とふとウートガルザロキは考えた。
そういった気の遣い方はありがた迷惑だが、可能性としては無きにしも非ず。

「付き合って二ヶ月、少しくらいは進展あったかなと思って」



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