14:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/05/21(水) 22:07:15.37 ID:Le++7Cc10
003
『初めまして、私、こういう者です』
『セールスの方ですか』
来ていたのは、セールスマンらしい。
アイドルプロダクションにおいてセールスマン自体は珍しくない。
営業と同じで中小企業がアイドルとのタイアップを狙って商品を売り込みに来ることは良くあることだ。
だが相手が悪い。
千川さんはその手の輩に一度として敗北を喫したことのない恐るべき経歴を持つ。
ものを売り込みに来たセールスマンを口八丁手八丁で丸め込み、非合法ぎりぎりの話術で翻弄し、挙げ句の果てに脅迫と見紛うような手口で商品だけを無料で掠め取る天才だ。
千川さんの手により泣いて帰ったサラリーマンの屍は数知れないと言えば凄さが伝わるだろうか。
彼等が減給や解雇処分になっていないことを祈るのみである。
同情こそすれど、僕に出来るのはこんなところに来てしまったセールスマンの方に合掌するだけだ。南無。
『折角ですけど、うちはそういうのは……』
『まあまあ、私は普通のセールスマンとは違いまして……不思議な商品をお売りしているのです』
僕は今回もまた犠牲者が……と顔も見えないセールスマンに同情の念を送っていた、のだが。
「なあ――斧乃木ちゃん」
「なあに、鬼のお兄ちゃん」
視線を交わさずに、斧乃木ちゃんに問う。
そこには、僕の聞き違いであって欲しいという願いが込められていたのかも知れない。
「なんか、扉の向こうに良く知ってる奴がいる気がするんだけど」
「奇遇だね、僕もそう思っていたよ、鬼のお兄ちゃん」
だが、その願いは儚くも散ってしまったようだった。
特大の溜息と共に玄関口へと向かう。
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