89: ◆tcMEv3/XvI[saga]
2014/06/01(日) 14:19:32.54 ID:itV8uRWoo
#4−1#
膝下まで濡れている。
懐中電灯の明かりのみを頼りにして、光なき地下水路を進む。
ダニエルは、そういえば。と、少女の語る「世界中に拡散した電磁パルス」のことを思い出していた。
確か、その電磁パルスのおかげで電子機器が破壊され(>>39)、2056年現在に至るまで文明は完全には復興されていない。
懐中電灯も電力を使っているのには違いはない。
では、なぜ懐中電灯は大丈夫なのだろうか。
世界の常識を違和感なく聞くためには……。
ダニエル「いやあ、フィオナ(少女)ちゃん。1つ聞きたいんだが」
少女「なあに、叔父様」
ダニエル「僕が5年前に書いたレポート、つまり『電磁パルスと電子回路破損の関係』は読んでくれたかな?」
少女「ええ。発表する場所が場所なら雑誌掲載もあり得るかもしれませんね。けど、ここアメリカでは更に研究が進んでいます」
ダニエル「まだ渡米したばかりで、この国の発達度をあまり知らないんだ。例えば――この懐中電灯は、なぜ電磁パルスの影響下でも正常に動くのかな?」
少女「あら、基本ですよ」
少女曰く、懐中電灯はシンプルだから動く、と。
――――――――――――――――――――――――――――――――。
電磁パルスの悪影響が色濃いのは、あくまで複雑な『集積回路に代表される精密機器』の類です。
一方、懐中電灯は大雑把で、数本の配線と電池、電球だけで成り立つことができます。
それ以外にも、主に以下の電子機器が正常に動きます
・モーター
・スピーカーやレコード
・モールス信号等、シンプルな有線通信
・電力を使用する単純な工業機械
などは問題なく動作します。
そして人類は、1999年の『文明崩壊』から2056年までずっと「精密な電子機器に頼らない発展」を続けてきました。
もちろん限界はありますけどね……。
――――――――――――――――――――――――――――――――。
ダニエル「強力な妨害電波もある。だからユーラシアと北米大陸の交流が薄くなったんだな」
少女「ええ。とにかく、叔父様。こちらでも研究したいですよね? 『聖堂』にそれなりの設備があります」
少年「叔父上は高名な研究者なんですか?」
ダニエル「いやいや、無名だよ。ドイツでの待遇が悪いから抜け出して来たんだ」
少年「えっ……ドイツは解体され、フランス政府の管理下に置かれているはずですよ……?」
!?
ダニエル「あ、ああ……旧ドイツのうちベルリン付近を、研究者たちのごく狭いコミュニティ内で、慣用的に『ドイツ』と呼んでるんだよ」
少年「なるほど……本に書いてない雑学も、後で沢山教えてくださいね」
僕よ、ナイス言い訳だ。
だが『忘却の薬』を飲む前の僕に言っておく。
――こういう事があるからそんな薬は飲むんじゃない。
――――――ん? 『忘却の薬』(>>8)で失うのは自伝的記憶のみだったはず……。
なぜ僕は、こうも世界的な常識を忘れているんだ? 薬の誤飲だろうか。
……だが……今は、そんなことよりも周囲との信頼構築に努めるべきだろう。
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