11:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/05/29(木) 19:48:08.48 ID:jPxrNCQ30
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僕は休憩時間である正午付近、事務所において先日鷺沢に勧められた本を読み耽っていた。
その本は、大正時代の階層社会を風刺した望まれない恋愛を描く物語。
果たして聞いたこともないタイトルと作者の古書は、不思議な魔力とも言える魅力があった。
その時代でしか語れない物語は確かにある。
例えば今からこの本と全く同じ題材で同じ物語を書こうとしても、全く別の物語になるであろうことは容易に想像できる。
何も昔の作品だから、という訳ではない。
それこそ今出版されている作品だって、同じ作者が十年後に書けばそこに微々たるとは言え必ず変化はある筈だ。
太宰が五十年遅く生まれたとしたら、『斜陽』を書き上げる可能性が限りなく下がるのと同じだ。
各時代における価値観、環境、風潮、あらゆる要素が混じり合って出来るのが作家の産み出す小説という作品だと考えると、中々に感慨深いものがある。
そんな事を思わせる作品だった。
勿論、鷺沢が勧めてくれただけあって内容も十二分に面白い。
と、僕らしくもなく小難しいことを思考していると、眼鏡を掛けたジャージの女の子が出勤して来た。
アイドル荒木比奈である。
「あ、プロデューサー。おはようございまーす」
「おう、おはよう荒木」
「プロデューサーが読書とは珍しいっスね、何読んでるんスか?」
「何だと思う?」
質問を質問で返すのは愚劣極まりないかも知れないが、荒木は気分を害した様子もなく首を捻って考え込んでいた。
しばらくして閃いたのか、手をぽんと打ち人懐っこい笑顔を浮かべる荒木。
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