64: ◆gijfEeWFo6[saga]
2014/12/21(日) 02:20:32.96 ID:LJ3GPEdto
本当に彼女は何も思っていないのか? ……辛くはないのだろうか。
色々見えたり、聞こえてしまうこの能力を持って生まれてきて今まで、俺は碌な目にあったことがない。
だから、見えないのがもどかしかった。彼女がどのような苦しみを抱えているのか、知りたかった。
俺は彼女を理解したい。似たような苦しみを持っているかも知れない芳乃を見て、理解したかった。
肝心な時に使えないゴミみたいな能力を、俺は恨んだ。
目の前を歩く小さな女の子。一つに結い上げている長い髪が歩みに合わせて左右に揺れていた。
彼女を見つめても、やはり何も見えないし、聞こえない。
だけど、少しの間、一緒に過ごしてきて確信はできた。
目の前の少女、依田芳乃は、本物ではない。自分を偽って生きているだけだ。
「…………」
気がつけば、目の前を歩く芳乃が横顔でこちらを見つめていた。
そして、寂しそうな笑みを見せて、前を向いた。
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