5: ◆dINyckyVoNyT[sage ]
2014/06/19(木) 03:10:05.85 ID:pYLU/na50
のんびり、静かな時間のはずなのに、部屋の掛け時計の音が聞こえない。
一人でいる時は一度気になったらなかなか耳から離れない音のはずなんだけど、今はなぜかドクンドクンと身体の中の鼓動で時間を刻んでいる。
握られた手はもう冷たくなくて、じんわりと汗ばんできていた。
「もういいだろ」
「うん、そこそこ満足」
そこそこ満足と言われても、完全に満足するにはどれだけの間握り続けてればいいんだ、と少し呆れたような視線を送るが、やんわりと笑顔を返された。
年上の女性というのはここまで余裕があるものなんだろうか。やっぱり俺の方が先に顔を逸らして俯いてしまう。
「なんか、安心した」
「何が?」
「男は優しいし、あんまり文句も言わないでちゃんと姉弟してくれてるもん」
「姉弟なんだからそういう風に生活するのは当たり前だろ。流石に見境がない馬鹿じゃないし」
「そういう捻くれてるところも安心する」
「俺はペース乱されっぱなしで安心なんて出来ないんだけど」
俺はただ我慢してるだけ。本当は見境なく可愛い女の子だったら手を出したいというのが本音だ。
奥手と言われればおしまいなんだけど、正直今の生活で十分心地良いから、これ以上を求めた瞬間に全てが泡のように弾けて流れていくかもしれない……という不安から無気力に流されるままに生活してるだけだ。
「男は、変わらないでね」
「は?」
「優しい弟であり続けてね、って事。特に深い意味はないよ」
「ふーん。人間どこでどう変わるかなんて分かったもんじゃあないんだけどね」
「またそういうこと言う」
そう、人間はどこでどう変わるかなんて、本人は愚か他人でさえ計り知る事は出来ない。
些細な日常を過ごして行くうちに変わって行くのか、絶望的な一日を過ごしただけで変わるのか、それともずっと変わらないまま一人の人間として生き続けるのか……なーんて、分からない。
「私彼氏募集中だから、好きになったらいつでも告白してくれていいからね」
「弟のままでいいよ。今頃恋人仲になんかになったらどうやって接したらいいか分からなくなるし」
「男は変わらなくてもいいんだよ、弟か、彼氏かってどうでもいい関係の名前が変わるだけ」
「じゃあ今のままでいい」
「欲がないねー」
「俺が姉ちゃんの事好きだと思ってる、なんて感じてるんだったら随分な自信だよ」
「私こう見えても自信家だから」
「見たまんま自信家だよ」
義姉は自信家だ。自分が出来る事が多くて器用な人間だから余裕もある。それでありながらも人を上から見下すような事をしない、出来た人間だと思う。
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