26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/06/20(金) 19:14:33.24 ID:aUpPVcxlO
「誰も、諸星きらりっていう私を見てくれなくなった……!」
万人に知られるということは、裏を返せば人間関係の希釈をしていることに他ならない。
多くの人に知られれば知られるほど、その人間の色付けは大衆の手に委ねられる。
いくら個人の意志が強かろうと、それは有名になる上で逃れ得ない関門だ。
どんな強者だろうと、風聞や噂というカテゴリにおいて大多数には絶対に勝てない。
ただでさえ正否も曖昧な情報で溢れ返る電子の時代だ。
そしてそれは、遠からず近しい人間にも波及することだろう。
自分は本当にこんな性格だったのか?
ひょっとしたら、作られたものなのではないのか?
諸星のような強烈と表しても違和感がないアイドルにとってみたら、本当の自分と世論の自分、『どっちが本来の自分なのかわからなくなる』。
それこそ数百万を越す、無意識も含む他人の評価を受けてなお自我を保っていられるほど、諸星は歳を食っちゃいない。
恐らくはそれが、諸星の掴み兼ねている距離だ。
人の一方的な評価ほど恐ろしいものはない。
それこそ、一人の人間を潰してしまえるほどに、だ。
過去の偉人が良い例だ。
ろくに資料が残っていないこと、本人が既に死亡しているのをいいことに風の噂や憶測が偽りの人格を形成し、あたかも化物や超人のような扱いを受ける偉人は少なくない。
そしてそれは、情報過多とまで言われる現世においても例外ではないのだ。
有名は、人を殺す。
勿論、僕だって偉そうに人のことは言えない。
縁あってアイドルのプロデューサーなんて仕事に就いていなければ、一生こんな考えにも至らなかった筈だ。
だけれど。
「諸星、お前は凄いやつだ。輝きを放つアイドルの中でも、一際眩しい光を纏っている」
「う……ぅ……っ!!」
「けれど、その分だけ孤独だ。お前自身は違うと感じているだろうが、心の何処かで自分の異質に疑問を持っている……それが、砌螽斯に取り憑かれた原因だ」
みしりと天井が悲鳴を上げる。
自分だけ他の人間とは違う。
そんなことを自慢したがるのは中学生だけでいい。
「だけどな、諸星。お前は他の女の子と何ら変わりのない、普通の女の子でしかないんだ。波乱万丈なんて言葉じゃ語りきれない程の高校三年生の一年間を過ごした僕が保証してやる。もしそれでも納得いかないって言うのなら……!」
テーブルに乗り、天井に仰向けに倒れる諸星に手を伸ばす。
が、身長が足りない。
ちくしょう、格好つかねえ!
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