925: ◆7SHIicilOU[saga]
2014/07/08(火) 21:51:09.74 ID:DBFZiQNeo
そこまで一息に言って、三杯目を煽る。
今日のハイペースは、もしかしたら本音を語る為なのかも知れない。
普段の黒井社長ならまず言わないであろう台詞を聞いてそう思った。
アルコールの所為という逃げ道を作っているのかも知れない、と。
「結果として、収まるところに収まってしまったのは、
少々つまらんがな。私としては961にまとめて来てもらうのがベストだと思っていた」
「はは、いまのウチなら飲み込みますよ?」
「やれるものなら、やってみろ」
クックックと、喉を鳴らすように笑う。
珍しい表情だ。そこそこの付き合いになるが、初めて見る。
「まぁ、一つ言っておくならば。自分の身体を大事にしろ、
自己管理もまともにできないプロデューサーなどいくら仕事ができてもへっぽこだ」
「……そうですね。耳が痛いばかりで」
先日倒れたばかりだ。
恐らく黒井社長ならその事も知っているだろう。
救急車がウチに来た、というだけで噂はあっという間に広がる。
「では、これで失礼させてもらおう」
残っていたグラスの中身を勢いよく嚥下して。
颯爽と立ち上がる。そこにアルコールの陰は微塵も見えない。
「え、もうですか? もう少しゆっくりしても」
「ふん、いままでならともかく。貴様はもう一介のプロデューサーではない、
250人から居るアイドルが所属する一大プロダクションの社長だ。
こうして飲むのもこれが最後だ」
「だから、来てくれたんですか?」
「……」
ふん。と鼻を鳴らしはしなかった。
ただ、少し目を細めて、こちらを見るだけで。
「じゃあ最後に、俺からも一つ本音を言わせてください」
黙ってお金を置いていこうとする黒井社長を呼び止める。
「俺にとっても、あなたは親でした。
高木社長が甘く優しい気弱な『お父さん』なら、
黒井社長は厳しく厳格な『親父』でした。
だから、もう一緒に飲み交わせなくなるのは、寂しいです」
「そうか……」
「それと、ここは俺が持ちます」
「なに?」
「最後だと言うなら、花持たせてくださいよ」
怪訝そうな顔をする黒井社長にそういうと、
彼は目じりを少しあげて、いつもの棘のある口調で。
「貴様はやはり、生意気なへっぽこだ」
そう言った。
「それと、……あー」
「はい?」
「人の目につかない、個室のある部屋なら、考えないでもない」
「……はいっ」
「ではな、新人へっぽこ社長」
そして、本当に黒井社長は帰ってしまった。
「マスター、お幾らですか?」
「いえ、結構です」
「え、……そういう訳には」
「いつも、お世話になってますから」
「……そうですか。では、失礼します」
扉を開けて、外に出た。
黒井社長の姿はすでになく、少し蒸した、都会の熱が頬を撫でた。
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