過去ログ - エリカ「あなたが勝つって、信じていますから」
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296:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします(SSL)[saga]
2014/08/10(日) 00:34:56.75 ID:aDI4/WiM0

 シオンタウン。その町中の公園で、ニドリーノとコダックを放って町の子どもたちの遊び相手をさせている老人がいる。

「あまり遠くへいっちゃいかんよ」

「はーい!」

 よく晴れた日だった。老人は公園でかけ回る子供とポケモン達を眺めながら、木陰に覆われたベンチへと腰掛ける。
 
 ニドリーノとコダック。かつて飼い主に傷つけられ、そして捨てられたポケモン。今では笑顔を取り戻し、外に出て元気に遊べるまでに回復した。

 かつて人によって母を殺されたカラカラも、今はきっと元気な日々を送っているだろう。

 しかし、フジ老人には決して記憶から消えない暗黒がある。

(ミュウ……ミュウツーよ…………)

 ただ、知りたかった。最初は純粋な欲求だったはずが、ポケモンを傷つけていることにすら気づかなかった。

 フジ老人はグレン島を去ってから、オーキド博士とタマムシ大学に働きかけ、ポケモンに使う薬の臨床試験についてポケモンの安全性を重視した決まりを全国に徹底させ、その後は傷ついたポケモン達を保護するポケモンハウスを設立した。

 それから四半世紀。

 多くのポケモンの心を回復させ、そして新たな旅立ちを見送ってきた今でも、胸に残る罪は決して消えてはくれない。

(もう、会うこともないじゃろう。だが、もう一度会ってあやまりたい。わしの自己満足だとしても、わしが死ぬ前にもう一度……)

「隣、よろしいですかな」

「ええ、どうぞ」

 フジ老人の隣に初老の男性が座る。フジ老人と違い腰はまだ曲がっていないようだった。髭がなくきりりとした眼、側頭部に残った髪の白髪が、まだまだ現役と暗に言っているようだった。

「よい笑顔をしたポケモンたちですな。あれはあなたの?」

「ええ。あの子たちの笑顔に、わしも助けられていますよ」

「なるほど……。全く、いい年の取り方をしているじゃないか。連絡ぐらいよこさんか」

「え……?」

 フジ老人の隣に座っていた男性が、丸縁のサングラスを掛け、白い立派な付け髭をし、側頭部に髪が生えていたカツラをとる。つるりとした頭が光っていた。

「カ……カツラ……!?」

「まったく何年ぶりか忘れたぞ! フジ!」

「カ……カツラ……。なんで……」

「グレンジムでガラガラを伴ったトレーナーに出会ってな。話を聞けば、そのガラガラは親を殺された所をとある老人に保護されていたと言うではないか! ポケモンを大切に思う老人がどんな人か、会いに来たくなってな!」

「……カツラ……わしは…………ただ……」

 フジ老人は眼を手で覆い、声を震わせた。カツラは友人に語りかける。

「罪滅ぼしなんて言うまいぞ。お前は昔からポケモンが好きすぎるポケモン馬鹿ということは知っている! それに、あの日の罪はあの場にいた全員が背負い込んだ物だ。一人で全部背負うでない!」

「カツラ……」

「話したいことがたくさんあるぞ。時計の針は元に戻らんが、それでも前に進んだフジの話を是非聞きたい。もちろん、こちらのことも話したい。どうかな」

 カツラは手を差し出した。その手は、どんな時でも共にポケモンの未知を求めた、親友の手。

「ああ……そうか……。そうだな……。そうするとしようか……!」

 フジ老人は涙を拭うのを忘れ、カツラと握手する。一人の少年がガラガラを救い、また一人の少年がガラガラを伴って旅立ち、そしてここに過去の絆を導いてくれた、今一度繋げてくれた。その全てに感謝しながら。


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