過去ログ - CD-Rって未だに使ってる人いる?
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26:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/18(金) 17:59:38.78 ID:iVDKIOZ2o
きっと困ってると思ったから,俺はそれを返すことにした.多分誰だってそうすると思うけど.
同じ駅の,同じ時間に,俺はUSBメモリを片手に立ってたんだ.
昨日の政治家は今日も頑張るらしかった.
のぼりには大きく脱原発の文字.俺も賛成だよ.
27:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/18(金) 18:00:28.04 ID:iVDKIOZ2o
開いたカバンの口からは,CDケースが飛び出していった.黄色のやつだ.
地面で2,3度バウンドする内に,ケースが開いて,いくつかのパーツに分離して,それからスライディングしていく様がはっきり見えたね.
構内に響く乾いた音に,通行人の視線が一斉に集まったのを感じた.
でも俺はね,それよりもまんまる鮮やかな黄色い円盤が,ユーフォーみたいにアクロバティックな空中遊泳を見せたことに,感動していたんだ.
28:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/18(金) 18:01:05.12 ID:iVDKIOZ2o
誰かは知ってたけど返事はしなかった.だって俺の網膜には,まだ黄色い残像の軌跡が残ってたから.
ぼーっとしてたんです.わざとじゃないんですって,ちょっと必死な言い訳が聞こえた.
それも知ってたよ.
俺はCDを拾い上げた.あちこちに擦れた傷がついてた.
29:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/18(金) 18:04:01.21 ID:iVDKIOZ2o
ヒンジが折れているから,もうくっつかないだろうなぁって,他人事のように考えてたよ,俺は.
ぼーっとさんは泣きそうになってた.黄色い革張りの定期入れを,ぎゅっと掌に食い込ませてるんだ.
俺はそれに,ちょっとぐっときてしまった.
俺がUSBメモリーを返してやると,ぼーっとさんはすごく喜んで,それからとても申し訳なさそうな顔をしたんだ.気持ちはわかるな.
30:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/18(金) 18:06:02.33 ID:iVDKIOZ2o
それから何度か,2人で食事したり,遊んだりするような間になった.
元がああいう出会い方だったからかな,ぼーっとさんはすごく気を遣って借りて来た猫みたいにしゃんとしていたんだけど,俺がそういうのはもう良いよって言うと,だんだん打ち解け始めてくれた.もちろん,おごってもらったのは最初の1回だけだよ.
ぼーっとさんは映画が趣味で,一番好きなのはバッファロー'66らしい.冒頭,ビリーが電話越しにマム,俺だよと語りかけ,そのあと無関心な母親を怒鳴りつけるシーンがすごく好きなんだって.変なセンスだ.一緒に鑑賞をさせられたけれども,俺は半分以上眠ってしまったな.
ピストルで自殺をするシーンは好きだよ.あれ,本当はしなかったんだっけ.
31:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/18(金) 18:08:13.38 ID:iVDKIOZ2o
ぼーっとさんは,普段からやっぱりぼーっとしていて,何も無いところでこけるような女だった.
小銭を調整するのが下手で,いつも財布はパンパンになっていた.
お酒が好きで,俺の部屋にくる度に,たくさん珍しいボトルを持ち込んでは饒舌に映画の話をするんだ.
料理は下手だし,彼女が来るといつも余計に部屋が散らかってしまった.
32:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/18(金) 18:09:47.58 ID:iVDKIOZ2o
ぼーっとさんが俺の部屋に来る回数はだんだん増えて,それに合わせて食器棚にはお酒のビンが並んでいった.
俺が持ち帰りの仕事をしている間,ぼーっとさんはいつもスマートフォンを片手にぼーっとしていた.ストラップには見たことも無い,マリモみたいなキャラクターがくっついていた.スマートフォンは何度も落下の憂き目に会っていて,あちこち傷がついていたのを覚えている.
俺の書類作りが終わったら,ぼーっとさんはにこにことお酒のビンを引っ張り出してきて,美味しくないおつまみを作ってくれた.
そうして,不思議な映画を一緒に見ては,その感想を少ないボキャブラリーで語るんだ.
33:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/18(金) 18:10:48.75 ID:iVDKIOZ2o
ぼーっとさんはデジカメで,ぱしゃぱしゃと色んなものを撮るのも好きだった.
青色の,掌よりも小さなデジカメだった.カードみたいに薄いんだけど,ぎょろりと大きな目玉のようにレンズの,ちょっとアンバランスなボディをしていて,ぼーっとさんに似ていると言ったら,どういう意味ですかって,ちょっと怒られた.
珍しい形のお酒のビンとか,自分が作った料理とか,ちょっと恥ずかしいけど,2人でくっついて撮った写真もあったな.
そういえば,USBメモリにも沢山写真が入っていたっけ.
34:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/18(金) 18:11:51.15 ID:iVDKIOZ2o
俺は,それをCDに入れようと思ったんだ.思い出になるし,CDの使い道にもなるしね.鞄から,青いディスクの入ったケースを取り出した.
ぼーっとさんに提案すると,それなら私のドライブを貸してあげますって言ってくれた.
ぼーっとさんのせいであと2枚になってしまっていたけど,いよいよこのCDにもCDらしく働いてもらえると思うと,俺はすっごく嬉しくなった.
だから,その日は2人で次々と酒ビンを空けていって,色んな映画を見続けたよ.
35:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/18(金) 18:13:25.30 ID:iVDKIOZ2o
ある日,会社に行くと俺は突然部長に呼び出された.
部長のところへ行くと,更に上の人に会わされた.なんなんだ,何か悪いことでもしたっけ? 俺は今のこの仕事が気に入っていたから,それなりに真面目に取り組んでいたはずだったんだけど.
部長よりも偉い人は,俺に分厚い書類の束を無理矢理持たせた.
君には,マレーシアの新規会社の技術指導員として3年程働いてもらいたい.偉い人はぴんぴんとした声で俺にそう告げた.
36:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[saga]
2014/07/18(金) 18:14:41.69 ID:iVDKIOZ2o
やはり俺の真面目さは認められていたらしい.
人を十分に力が発揮できる場所で,適切に働かせる力も評価されているって,部長がこっそり教えてくれた.つまるところ,出世コースとして用意された海外派遣であった.
帰ってきたら,新部門の部長のポストを空けてくれるってさ.
俺は,丁重にお断りをして,その日のうちに退職願を書いた.
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