14: ◆8HmEy52dzA[saga]
2014/07/29(火) 20:28:51.77 ID:YJpQUpwa0
「……大丈夫ですよぉ、まゆはいつだって、ずっと、ずぅっとプロデューサーさんから離れたりしませんから」
「あぁ……ごめん、変な事言っちゃって」
「どうしても耐えきれないくらい寂しくなったら……まゆが、埋めてあげますから」
「さ、佐久間……うわぁっ!?」
気付いたら、席を立って注文したアイスコーヒーを、頬が緩んで間抜け面の阿良々木にぶち撒けていた。
何故ホットを頼まなかった、十分前の俺よ。
シェイクでも良かったな。
まぁ、阿良々木のワイシャツを台無しに出来ただけ良しとしてやろう。
「つ、冷た……っ! な、何するんだお前!!」
「何ですか、貴方……?」
頭からコーヒーを引っかぶって狼狽する阿良々木には目もくれず、佐久間を観察する。
成程、整った顔立ちに天然そうな雰囲気を醸し出してはいるが、意志の強そうな、それでいて深淵の如き眼をしていた。
この目は知っている。
この目は、目的の為ならば手段を選ばない奴の目だ。
「何とか言え……って、お、お前……貝木か!?」
流石に凝視されれば顔付きや雰囲気でわかるか。
ここで顔見せをする予定ではなかったが……なに、些細な問題だ。
予定は狂ったが順番が入れ違っただけだ。
「そんな格好して、何を企んでやがる!?」
「その女……佐久間まゆが代わりになると、そういう事なんだな?」
「……? 何を……」
「戦場ヶ原の代わりになると、お前は言う訳だ。傑作だぜ、怪異によって結ばれた縁が怪異によって切られるとはな」
「戦場ヶ原……?」
阿良々木は、一瞬何かを思い出そうと思案するもののやはりそう上手くは行かず眉を顰める。
愛の力で恋人を思い出せないなんて、お前は物語の主人公失格だな。
「誰だ、それ……人の名前か?」
「そうかそうか、そうだった。お前はその程度の男だったな、阿良々木。悪かったよ。お前も騙される側だっただけということだ」
「訳の分からない事を……!」
ああ、腹が立つ。
何に対して腹が立っているのかもよく分からない所が余計に増長させているじゃないか。
「悪かったよ、ほれ、クリーニング代だ」
財布から万札を三枚ほど出して投げつけてやる。
俺は金が死ぬほど好きだが、その大事な大事な金をこうやってぞんざいに扱うのも中々気分がいい。
どうせ成功の暁には三千万という大金が入ってくるんだ。
経費のうちだ、問題ない。
これは嘘だ。
直前までは札束で顔をはたく、もしくは金を燃やして光を得る優越感でも得られるかと思ってやってみたが、金を失った悲しみの方が大きい。
仮に目が眩む大金を稼いだところでもう二度とやらん。
「精々達者でな」
呆気に取られすぎて言葉も忘れたのか、呆然と立ち尽くす阿良々木の横を颯爽と横切って退店する。
今、阿良々木の頭の中では種々様々な感情や疑問が浮かび上がっているのだろう。
俺がなんでこんな格好をしているのか、とか、俺が金を放り投げるなど気でも違ったのか、と。
それはそうだ。
俺だって自分の頭がおかしくないかどうか断定出来たことなんて、生まれてこの方、一度もねえんだからよ。
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