9:1[sage]
2014/08/02(土) 01:57:08.33 ID:n0O0dDR9o
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「……」
はらはらと、季節外れの遅れ雪が降り、そして地面に落ちては儚く消えて行った。
「怜、――怜ってば」
「……ん?」
「怜、ご飯出来たで」
「……あ、竜華。……そうか、もうそんな時間なんやな」
白い、元から白かった怜の肌は更に白くなり、まるで雪の様だ。
「順位戦が始るからって、あんまり無理はせん方がええで」
「うん、分かってるって竜華」
そう、ウチも分かってる。
口ではこう言っているものの、怜のはご飯を少し食べたら、また牌譜を並べて研究を続けるのだろう事を。
「今日は銀杏の炊き込みご飯なんかー、美味しそうやねー」
「怜は小食なのに好き嫌い激しいやん、作る方は気を使うんやでー」
「はは、メンゴメンゴ」
怜はもそもそと、お茶碗に半分ほど盛った炊き込みご飯と、同じ様に半分だけ入ったお吸い物を、ウチに分からんように、苦しい顔を隠してお腹へと詰め込む。
「ごちそうさま」
「うん、ごちそうさま」
ウチが後片付けをしてる間に、また怜は牌譜に夢中になり。
まるで残り少ない時間を削り取る様に、麻雀へとのめり込んで行く。
私はずっと、怜は私と同じ大学に進学して、何時までも一緒に居てくれるのだと思ってた。
しかし現実では、ウチは大学に進学し、怜はプロへと進む事になった。
当然この事は怜と何回も話しをした。
ウチも麻雀打ちだから気持ちは分かる、せやけど離れるのは寂しいし心配だという事、プロになるのは大学に行ってからでも遅くないんやないか?……と。
私は何も分かって居なかったのだろう。
怜は笑いながら「大丈夫やから」「気を付けるから」と、私を宥め、そして態度は柔らかいものの、確固として自分の意見は覆さへんかった。
もう、あの頃には、自分の身体の事を分かっていたのだろう。
自分の本当に欲しい物を獲るには、アレもコレもと寄り道するには圧倒的に時間が足りない事を……知っていたのかもしれない。
その後、プロになった怜は、一度、対局中に倒れ。心配になったウチは無理矢理にマネージャーの真似事の様な事をしだした。
しまいには、親に頭を下げ大学を休学し怜の部屋に転がり込み、一緒に住む事を承諾させた。
それに対して、怜の所属するチームの運営さんは、ウチが勝手に始めた事なので給料は要らないと言ったんやけど、やるのならばちゃんと仕事としてやって欲しい。そして仕事ならば、胸を張って給料を受け取れる仕事をやって欲しいと、言ってくれた。
うちはそれを聞いて顔が真っ赤になった。
自己満足で、怜だけやなく、全ての人に迷惑を掛けようとしていた事を自覚したからです。
まあ、そこで凹んでも誰も得せーへんから、落ち込むのは一瞬だけで終わらせたけどな。
はぁ……。
全てがそんな風に、けせらせらで済ませられたらええんやけど。
もちろん、そんなわけにはいかへん。
あの、最後のインターハイから5年。
怜は並み居る強敵を押し退けて、A級雀士になった。とてもとても凄い事やと思う。
それでも、しかしそれでも未だA級の中位、いや下手したら下位にカウントされるかもしれへん順位や。
それは、あの圧倒的強さで、誰も寄せ付けなかった宮永照でさえ、A級1位になれずに居る事が証明なのかもしれへん。
でもだからこそ、怜は挑んでるだろうと思う。
すぐに手に入る物なら、そんな物は端から望まないで、ウチと楽しいキャンパスライフを送っていた。そのはずやから。
あの頂点は、プロの世界のチャンピオンという意味は、怜にはどんな風に映っているのだろう?
それだけは、怜の事が何でも分かってると自負してるウチでも、分からない事の一つや……。
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