4: ◆8HmEy52dzA[saga]
2014/08/07(木) 22:39:47.35 ID:iJvGxYcs0
「ねえ、僕は大丈夫だから早く行こうよ。お姉ちゃん、行きたいところがあるんでしょ?」
困ったことに彼は、道に迷った私を警察へと送り届けることを自分の責務としているようなのだ。
ここまでの経緯を簡潔に記すと、いつの間にかこの街にいた私は、最初に視界に入った彼にここは何処かと聞いたところ、聞いたこともない地名だったため、警察への道を教えてくれるよう頼んだのだ。
そしたら彼が、僕が案内してあげるよ、と言ってくれたのだった。
小学生の子供に迷子扱いされるのも如何し難いものがあるが、私は本気でここが何処かわからないのだ。
迷子の常套句のようで情けないが、気付いたらここにいた、のだ。
携帯も持っていない、ここがどの辺りなのか目安となるものも見当たらない。
日本であることは確かだけれど、そんなもの何の気休めにもならない。
それにしても結構な田舎ね……公衆電話を見たのも久し振りだし、個人のゲームショップらしき寂れた店も先ほど見掛けた。
X箱新発売、なんて広告が未だに貼ってあって少し笑ってしまった。
こういうレトロさはある意味貴重よね。
そんな事より、何か思い出せないかしら……ええと、確か昨日はユニットでのツアーの最終日前で、高橋さんと柊さんと片桐さんの四人で軽くお酒を飲んで……。
柊さんと片桐さんはウワバミだから飲むにつれて上下するテンションの変遷について行くのが大変なのよね。
……ダメだ、思い出せない。
飲み過ぎて記憶を失った?
いや、この年にもなれば嫌でもお酒の飲み方くらい覚える。
大学時代じゃあるまいし、ライブの前日に記憶が無くなるまで飲むなんてやる筈もない。
アイドルとしてあるまじき行いをしたような記憶はない……と思う。
柊さんたちもいたことだし、万が一そうなりそうになったら止めてくれるだろう。
となると、考えられるのは夢……かな。
飲んだ割にはお酒も残っていないみたいだし、その説が一番有力な気がしてきた。
飲む前にウコン液は飲んだけれど、お酒を飲んだ次の日は大抵、少し頭が痛かったり喉が渇いていたりするものだ。
夢かぁ……でもこんなに意識がはっきりとしている夢なんて、あり得るのかしら……。
「お姉ちゃん、この辺の人じゃないよね」
「え? え、ええ。そうね」
いきなり話し掛けられ狼狽してしまう。彼は彼なりに、見知らぬ土地に迷い込んだ私を気遣ってくれているのかも知れない。
だとしたら随分と将来が楽しみな子だ。
「学校の名前とかも思い出せない?」
「学校?」
「お姉ちゃん、高校生くらいでしょ? ……違うの?」
「あら」
嬉しいことを言ってくれる子じゃないの。
いくらまだお若いですよ、と言われようと十代の頃に戻れないのは自分が一番よく知っている。
さっきの発言からもお世辞を言うような気の利く子には見えないし、もしかして、ひょっとしたら本当なのかしら。
最近始めたルイボスティーとフルーツのアンチエイジングが効いたのかしら。
「お姉さんはこれでも二十歳越えてるのよ」
「……僕が子供だからって嘘をついちゃいけないよ、お姉ちゃん。どう見たって未成年じゃないか」
「わかるわ!」
ああ、なんだろうこの気持ち。
この子の為なら何でも買ってあげちゃいそう。
ホストに貢ぐ女の人の気持ちって、こんな感じなのかしら……。
夢じゃないか、と頬をつねってみるけど、やっぱり痛かった。
言われてみるとお肌が十代の頃に若返った気がする。
身体も軽い。
お腹も空いてきた。
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