過去ログ - 阿良々木暦「みずきアワー」
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6: ◆8HmEy52dzA[saga]
2014/08/07(木) 22:43:10.90 ID:iJvGxYcs0


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懐かしい曲がイヤホンを通して頭に流れ込んでくる。

聞いているのは、十年以上前の有名なアイドルの曲だ。
一度歴史に名前を残したアイドルは、何年経とうが全盛期の威光が残る。
私も、そうなれる日が来るのだろうか。

明るいスポットライトは眼球を圧迫する。
お腹が丸出しだったり袖の無い露出の多い衣装には常にあらゆる危険が付きまとう。
バラードやメロディポップスならまだしも、激しい振り付けのあるハイスピードな曲は何度練習しようと鬼門だ。

「いたたた……」

イヤホンを外して化粧直しのために姿勢を整えると、控え室で腰の辺りに違和感を感じる。
湿布でも貼っておきたい心境だが、仮にもアイドルがそんな醜態を見せる訳には行かない。
ファンの皆さんの前で張り詰めていた緊張感が解けるかのように、重いものが背中に覆い被さって来た。

年齢を感じるようになったのは、いつからだろうか。
少なくとも二十歳……いや、大学を卒業する頃はまだ何も感じなかった、と確信に近いものはある。
女子アナとして活動していた頃も、そこまで違和感は感じなかった。
敢えて折り返し地点のようなものがあったとしたら、やはり四捨五入して桁が繰り上がる歳になった時だろうか。

食事に関しても量は減り、白米とおかずの比率に感じる必要のないかも知れない危機感を覚え、砂糖の摂取量もグラム単位で気になるようになった。
前日にお肉を食べると、翌日の夕方まで胃袋に残っている気がする。
中学生の頃のように毎日自転車で出勤する自信と気力は希薄だ。
筋肉痛は痛み自体よりも、何日遅れて来るかの方が気になる。
不安を煽る健康関係の番組は見なくなり、高橋さんや柊さんたちと事務所での情報交換を主とするアンチエイジングが始まる。
周囲に十代のアイドルたちが当たり前のようにいる環境では、昔のようにお若いですね、と言われることもない。

「……はぁ」

思わず溜息が出た。

……いけない、ネガティブはお肌の敵だ。
それに私はこのクインテットの最年長でもある。
その私が落ち込んでいる姿なんて見せたら皆の士気も下がってしまうだろう。

「よしっ、あと一曲!」

頑張れ私、と気合を入れる。



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