過去ログ - 「あっしがおっ死んじまった話」
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1: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 22:47:18.85 ID:pDIBvgpo0
ヤッ、こいつあドウモ旦那。

こんな田舎っぺえのあっしのために、このようなリッパな席をご用意頂くとは……甚く感謝しておりまする。
イヤイヤどうも、申し訳ない。……イエイエ結構!座布団なんて……あっしのようなシガない庭師にゃ、冷たい板の間が合うてまして。
そのままで結構……結構!汚れマス……座布団を汚してしまいマスので……へへへ、いやどうもかたじけない。

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2: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 22:52:14.05 ID:pDIBvgpo0
ヤヤ、こいつは奥様。
へへへ、お美しいこって……あっしは齢三つの頃から庭の木々をいじくり回しておりますが、
このようにお偉ガタに囲まれるっテエのは……何分初めての事でして。

あっしがお話出来る事と言いましたら、松の木の綺麗な切り方だとか、石の積み方ぐらいなもんでげして。
以下略



3: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 22:57:39.15 ID:pDIBvgpo0
へえ?聞きたい事があると?……旦那が、あっしにでゲスか?

……あっしの身の上話で御座いますか。イヤア、こいつは困りました。
何分ただの田舎モンの庭師でゲスので……へえへえ、そうですね。そういう事になりますナ。
お話出来るような事なんぞ……そうですな。
以下略



4: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:03:20.78 ID:pDIBvgpo0
ヘエ、奥様はそのようなお話が大のお好きだと仰る……マイリましたなァドウモ。
酒の肴にするにゃあチと、下らないお話でゲスので……ハァ。
あっしがおっ死んじまった訳ですからね。こんな話、旦那にしても……。
アラ、旦那。旦那もお好きだと言いますか。ウワア、えらい事になったナ。


5: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:07:28.97 ID:pDIBvgpo0
ならばお話しますが……どうか、ドウカ。……ちいとばかし長いお話になりますのでね。足を崩して頂ければト。
ヤッ、奥様お酌なんぞは……あっしには必要の無い事でゲス。お構い遊ばしません。こぼれます、コボレマスので……結構。どうも……。
代わりに旦那、葉巻を一本頂ければト……ヤヤ、ドウモかたじけない。……火まで頂けるとは、恐縮です……。

……フウーッ……。
以下略



6: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:10:50.64 ID:pDIBvgpo0
……あっしの生まれ故郷は、そいつァ大層な田舎なもんでゲして。
あっしはその土地を治めるさる貴族の屋敷で、庭師として生きておりました。
日ガナ一日枝をチョキン、石をゴロリと転がしましテ、お偉ガタが喜びなさるような、素晴らしい庭を作っておりました。


7: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:13:11.30 ID:pDIBvgpo0
自慢じゃあありませんが、あっしの作る庭はそれはそれは綺麗なモンで……主人が喜びなさるモンなんで、あっしも張り切って枝をチョキチョキ、石をゴロンときたもんです。
アンマリにも張り切って、毎日毎日道具をキチンと手入れしてたモンなので、主人はあっしの道具を金剛石(ダイアモンド)か何かだと思ったようで……。
使い古したあっしの道具が、もうチットで紙のお金に変わる所でゲしたという……アハハハハ、笑い話が御座いまして。

今思えばそうした方が良かったかもしれません。……イヤ何、こちらの話でして。フウーッ……。


8: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:16:18.42 ID:pDIBvgpo0
自慢といやあ、あっしの歳の離れた妹も自慢の一つでした。
名をミチコと言いまして……こいつがあっしに似ず、可愛い娘なんでゲス。
背丈は五尺チョットぐらいの、小柄な愛らしい猫のような娘でして……。

丁度奥様に良く似た顔立ちで御座いました。……イヤ失礼!奥様の方がお綺麗で……ドウモ、すみません。ヘヘヘ、慣れないモノで……ドウモ。


9:VIPにかわりましてNIPPERがお送りします[sage]
2014/08/07(木) 23:19:08.95 ID:6aHb1HMq0
文才を感じる


10: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:20:57.20 ID:pDIBvgpo0
ともかくあっしは妹を、マルで実の娘であるかのように可愛がっておりましテ。オイと呼べばハイと答え、ナアと言えばナアニと答える……そんな妹が可愛くて可愛くて仕方ありませんでした。
仕事の方でも、そうですね。……あっしが植えた苗にミチコが水をやる、あっしが切った枝をミチコが集めるという具合でしテ。それはそれは仲が良く……。

へへへ、どうも相すいやせん。惚気話に付き合わせてしまいやして。しかしここが大切なお話でして……フウーッ……ああ失礼旦那。灰皿を……エエどうも。ドウモ……。


11: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:23:52.64 ID:pDIBvgpo0
ミチコは誰にでも愛想が良く、あっしと違って皆の人気者でゲした。
お空の上にある太陽に負けないくらい、明るい笑顔で庭仕事をするモンですから。
小さい頃から他の庭師に、可愛がられて育ちました。

あっしは気が気じゃありませんでしたね。アハハハ……アハアハアハ……可愛い妹をそこらのキタネエ庭師にやれるかと、鼻息荒く妹の周囲を、犬のようにグルグル回っておりましたよ。
以下略



12: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:26:04.23 ID:pDIBvgpo0
ある日、あっしは目ざとく気付いちまったモンでげして。
貴族の若様が、ミチコに『イロ目』を使ってる……訳でゲして。

確かにミチコは、それはそれは可愛いモンでしたが、まさか若様の目に留まるとは思いもしませんでしたナ。
頭痛が痛いというバカな言葉が出ちまうのも無理は無いですよ。


13: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:28:03.31 ID:pDIBvgpo0
貴族と庭師とじゃあ、それはもう身分が違うって騒ぎじゃあありませんからね……あっしは若様のお気持ちに気付きましたが、ナンとも言わずに日々を過ごしておりました。

しかし、どうにもオカしい。……若様はどうやら、本気なようでゲして……へへへ、兄としては喜ぶ所なんで御座いましょうが、どうにも受け入れられなくてですね。
若様が日ごと、ミチコとの距離を詰めていくのを、歯ガユイ気持ちで見ておりましたよ。


14: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:30:29.27 ID:pDIBvgpo0
しかしまあ、あっしはトコトン運が悪い男でして。

……磨き終わったノコギリ一丁を、庭の石蔵に仕舞おうと思うた、夕暮れ時の頃です。
石蔵の影で、若様とミチコが……チッスをしているのを、見ちまいましてね。
……ヘエ……キッス、ですか。……どうも相すいません。田舎者でげして。
以下略



15: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:32:34.13 ID:pDIBvgpo0
兎も角あっしは、ウスラ汚え嫉妬を一摘みと、兄として祝福してやろうという気持ちを抱えて、自分の部屋へ帰ったもんでして。
ただ、ナニ……その後がいけませんでしたナ。

そうだ、妹が若様に嫁ぐってえんなら、兄として何かやらんとな……ときたもんです。今思うとなんとも気が早い……田舎モンな訳でゲスからな。カッテがわからん訳でして。
あっしは懐にカネを突っ込み、古びたコートを羽織って、外へ飛び出したのです。町へ降りて何か買ってやろうと息巻いておりました。……初めての事でしたナ。夜に出歩くというのは……。
以下略



16: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:35:33.33 ID:pDIBvgpo0
あっしが手入れした庭を横切り、正門へと出向いた訳ですが、
何やら様子がオカシイ……。

正門の前に、見慣れぬ馬車が一台、停まってるじゃあありませんか。
何分、夜に出歩くのは初めてでゲスので……見慣れぬのも無理は無い訳ですが。
以下略



17: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:37:44.85 ID:pDIBvgpo0
馬車の周囲には、カイゼル髭にシルクハットという……何やらウサンクサイ輩が数人おりましテ。
その中に、ナント……若様がおられるのを、見ちまいましてナ。
こいつはいよいよオカシイぞと、あっしは訝しんだ訳です。


18: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:40:00.81 ID:pDIBvgpo0
そのうちにバタンと扉が閉まり、ぴしゃんという鞭の音がします。
こいつはいけねえと、あっしは無我夢中で、馬車の後ろに掴まりました。

ゴトゴトと馬車は山道を進みます……あっしは見つからないよう細心の注意をはらいながら、チラと窓越しに馬車の中を見ました。
若様は、カイゼル髭の輩どもと、なにやら下卑た笑みを浮かべながら話をしているのです……。
以下略



19: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:42:02.53 ID:pDIBvgpo0
秋口の事ですから、馬車の外に掴まるというのは、ナニ、少々身体にコタえるものがありまして。
町へ行くだけだったなら、ちょいと酒場で一杯、身体を温めようか……ナンテ、考えていた訳なのですが。

馬車はグングンと速度を上げて、脇道にそれていくではありませんか。
コイツはもうダメだ、なんて思った次第です。
以下略



20: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:44:54.68 ID:pDIBvgpo0
風に吹かれ、身体のシンまで冷えきった頃に、ヤット馬車の速度が弱まりました。
見ると、森の中に立派な赤煉瓦の建物があるのです。……驚きましたよ、それはそれは……。

あっしはエイヤっと馬車から飛び降り、近くの木陰に身を潜めました。
馬車はすぐに止まり、中からカイゼル髭と若様が降ります。
以下略



21: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:46:36.57 ID:pDIBvgpo0
さて、赤煉瓦へと入っていった若様達ですが、
これが一刻たってもニ刻たっても、ウンともスンとも言わん訳でして……。

そのうちにあっしはシビレをきらして、ソロリソロリと赤煉瓦へと近づいていきました。
中から若様が出てきて鉢合わせしたら、わんと一声吠えて逃げてやるぞと、そう思いながら近づいていきました。
以下略



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