13: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:28:03.31 ID:pDIBvgpo0
貴族と庭師とじゃあ、それはもう身分が違うって騒ぎじゃあありませんからね……あっしは若様のお気持ちに気付きましたが、ナンとも言わずに日々を過ごしておりました。
しかし、どうにもオカしい。……若様はどうやら、本気なようでゲして……へへへ、兄としては喜ぶ所なんで御座いましょうが、どうにも受け入れられなくてですね。
若様が日ごと、ミチコとの距離を詰めていくのを、歯ガユイ気持ちで見ておりましたよ。
14: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:30:29.27 ID:pDIBvgpo0
しかしまあ、あっしはトコトン運が悪い男でして。
……磨き終わったノコギリ一丁を、庭の石蔵に仕舞おうと思うた、夕暮れ時の頃です。
石蔵の影で、若様とミチコが……チッスをしているのを、見ちまいましてね。
……ヘエ……キッス、ですか。……どうも相すいません。田舎者でげして。
15: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:32:34.13 ID:pDIBvgpo0
兎も角あっしは、ウスラ汚え嫉妬を一摘みと、兄として祝福してやろうという気持ちを抱えて、自分の部屋へ帰ったもんでして。
ただ、ナニ……その後がいけませんでしたナ。
そうだ、妹が若様に嫁ぐってえんなら、兄として何かやらんとな……ときたもんです。今思うとなんとも気が早い……田舎モンな訳でゲスからな。カッテがわからん訳でして。
あっしは懐にカネを突っ込み、古びたコートを羽織って、外へ飛び出したのです。町へ降りて何か買ってやろうと息巻いておりました。……初めての事でしたナ。夜に出歩くというのは……。
16: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:35:33.33 ID:pDIBvgpo0
あっしが手入れした庭を横切り、正門へと出向いた訳ですが、
何やら様子がオカシイ……。
正門の前に、見慣れぬ馬車が一台、停まってるじゃあありませんか。
何分、夜に出歩くのは初めてでゲスので……見慣れぬのも無理は無い訳ですが。
17: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:37:44.85 ID:pDIBvgpo0
馬車の周囲には、カイゼル髭にシルクハットという……何やらウサンクサイ輩が数人おりましテ。
その中に、ナント……若様がおられるのを、見ちまいましてナ。
こいつはいよいよオカシイぞと、あっしは訝しんだ訳です。
18: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:40:00.81 ID:pDIBvgpo0
そのうちにバタンと扉が閉まり、ぴしゃんという鞭の音がします。
こいつはいけねえと、あっしは無我夢中で、馬車の後ろに掴まりました。
ゴトゴトと馬車は山道を進みます……あっしは見つからないよう細心の注意をはらいながら、チラと窓越しに馬車の中を見ました。
若様は、カイゼル髭の輩どもと、なにやら下卑た笑みを浮かべながら話をしているのです……。
19: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:42:02.53 ID:pDIBvgpo0
秋口の事ですから、馬車の外に掴まるというのは、ナニ、少々身体にコタえるものがありまして。
町へ行くだけだったなら、ちょいと酒場で一杯、身体を温めようか……ナンテ、考えていた訳なのですが。
馬車はグングンと速度を上げて、脇道にそれていくではありませんか。
コイツはもうダメだ、なんて思った次第です。
20: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:44:54.68 ID:pDIBvgpo0
風に吹かれ、身体のシンまで冷えきった頃に、ヤット馬車の速度が弱まりました。
見ると、森の中に立派な赤煉瓦の建物があるのです。……驚きましたよ、それはそれは……。
あっしはエイヤっと馬車から飛び降り、近くの木陰に身を潜めました。
馬車はすぐに止まり、中からカイゼル髭と若様が降ります。
21: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:46:36.57 ID:pDIBvgpo0
さて、赤煉瓦へと入っていった若様達ですが、
これが一刻たってもニ刻たっても、ウンともスンとも言わん訳でして……。
そのうちにあっしはシビレをきらして、ソロリソロリと赤煉瓦へと近づいていきました。
中から若様が出てきて鉢合わせしたら、わんと一声吠えて逃げてやるぞと、そう思いながら近づいていきました。
22: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:48:23.33 ID:pDIBvgpo0
赤煉瓦を指先でコツコツつつき、グルグルと周囲を回りました。
入口の鉄製の扉は、カカアの財布のヒモのように硬く閉まっておりましてな。どうにも中の様子は見れそうにない。
あっしは暫く考えました。そして、
上の方になら、昼間に使う『明かり窓』があるかもしれないナ……と、思うた訳です。
23: ◆eUwxvhsdPM[saga]
2014/08/07(木) 23:50:04.85 ID:pDIBvgpo0
あっしはウンウン唸りながら、煉瓦を登って行きました。
そして、やっとこさの思いで、明かり窓まで辿り着いた訳です。
我ながら何という執念で御座いましょうか……。
アンナ執念なんぞ無ければ、あっしはおっ死ぬ事は無かった訳ですから、皮肉なモンです。アハハハハ……。
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