32: ◆N7YbsBIT3ELs[saga]
2014/09/01(月) 22:02:05.84 ID:b1HKoC2c0
  
  雨男はナイフを少女に向け、空中で彼女の姿をなぞるように、ゆっくりと動かした。どうやって身体を寸断するか、測っているようだった。 
  少女は調子を確かめるかのように、しゃきちゃきと二、三度鋏を鳴らした。 
  今度は、同時だった。両者ともが唐突に、同じ時機に、踏み込んだ。 
  交錯の瞬間、少女の鋏は再び空を切った。 
  雨男は、地を這うような低い姿勢で突進していた。雨男の頭部を狙ったと思しき少女の鋏は、雨粒を噛んだ。 
  そのまま、雨男のナイフが少女の腹を抉ろうとする。 
  少女の身体が、倒れた。 
  正確には、少女が自ら、後ろに身体を倒した。雨男の刃から逃れるための動作だった。 
  即座に体勢を立て直そうとする雨男に、少女は倒れた姿勢のまま、靴底を叩きつけた。 
  しかし、腹に飛んだ蹴りは左腕で防がれていた。 
  雨男はそこから、少女目掛け、倒れ込んだ。 
  左手を地面に突き、少女の首元へナイフを突き下ろした。鋏による反撃に怯えがあれば、とてもできない所業に思えたが、一連の動作の全てが迷いなく、素早かった。 
  少女は身をよじって、ナイフから逃れた。刃がアスファルトを削り、小さく金属音が鳴った。 
  雨男は少女のすぐ横に跪くような体勢のまま、間を置かずに、ナイフを薙いだ。 
  立ち上がる機もなく、対応を迫られた少女は、鋏を噛みつかせ、ナイフの刃を止めた。 
  少女の細首の横で、刃が競る。 
  膠着状態の最中、雨男は少女を覗き込むように首を動かした。 
  数秒間、雨音すら聞こえない、緊張の静寂が流れた。 
  突如として、雨男は刃を引き、跳び退いた。 
  雨男は、自らを睨みながら身体を起こす少女を一瞥すると、暗い小道へと駆け、夜雨に消えた。 
  
  
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