過去ログ - 総合P「過労死しそうにない」
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603: ◆7SHIicilOU[saga]
2015/02/04(水) 10:28:05.12 ID:onGq7QEco

「ちょっと待ってて」

 そう言って美希さんがレッスンルームのロッカーから取り出したのは二足の靴。
タップ用のシューズ。それもボロボロの。

「ごめんね、まともに使えるのこれしか残ってないの」

 私がそれをじっと見ているのをどう思ったのか、
美希さんは少し申し訳なさそうにそう言った。

「これって、美希さんのですか?」
「うん。全部で四足買ったんだけど、後の二足はダメになっちゃって」
「……いつ買ったんですか?」
「ん、まゆのステージでタップをやるって聞いてからだから三週間位前なの」

 たった三週間。たった三週間でこんなにも?
鳥肌が立った。

「なんで……ですか?」

 聞いてみたかった。美希さんには関係のない筈のステージ。

「なんで美希さんがタップの練習を?」
「だって、それが美希の役割だと、美希は思ってるから」

 用意していた答えを言うようにさらっと。

「美希は、正直カメラの前向きのアイドルじゃないの。
 みんなみたいに司会進行とか、撮れ高とか数字とかカメラワークとか
 そういうカメラの前での流れってのがいまいちピンとこないから。
 その代わり、美希はステージの上で頑張るの、
 これはハ……プロデューサーにも言ってあるけど。
 どこかに穴が空いたら美希に一番に言ってって、伝えてある。
 だから誰の曲のどのパートのどの位置に入っても、完璧に合わせられる様に、
 一度のリハーサルで溶け込めるように全部片っ端から練習してるの」

 全曲の振り付け、歌詞を全部?
振り付けだってユニットだったら色々ある、センター・サイド・バック・レフトライトのフロント・サイド・バック。
それを全部?

「さ、始めよっか」

 にこりと笑って靴を履き替える美希さん。
私は勘違いしていた。きっとこの人は努力をしてないんだろうって。
ううん、してない事はないのだろうけれどきっと私達のソレよりも少ない。
あるいは同じだけしてもより先に進めるんだろうと思ってた。
           ・ ・
「……はい。美希先輩」

 けど違った。この人はそれ以上に努力をしているんだ。
それを決して見せないだけで、白鳥なんて足元にも及ばないほどに努力している。

 やっとわかった。この人の背中が近く見えるわけが。
ずっと、手を伸ばせば届くところまで自分が着たんだろうと錯覚していた。
もうすぐ……もうすぐ……そう思ってた。

 けど、本当はずっと遠くに居て。そしてとっても大きい。
距離感を失うほどに大きかったんだ。

「ご指導ご鞭撻の程。よろしくお願いします」
「あはっ! 任せるの! ……ねぇ、まゆ」
「はい?」
「美希、『頼れる』先輩でしょ?」
「……はい。とっても」


 その日から、ダンスレッスン室で並んで踊る二人の姿がよく見かけられるようになりました。


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