11: ◆8HmEy52dzA[saga]
2014/09/16(火) 20:06:18.09 ID:sCBd7Qvo0
事務所の最寄り駅から東へ約一時間。
乗り換えを二回行ったところに、ウサミン星はあった。
アパートの名前こそメゾン・ウサミンではなかったが、住所は間違っていない。
その建物を形容するのならば、良く言えば味のある、悪く言えば古い木造アパートだった。
所々に補修の跡が見られることからも、かなり古い建築物のようである。
ひたぎの住む民倉荘といい勝負だ。
横付けの歩く度に軋む階段を登り202号室まで行くと、表札にはきちんと『安部』と明記されていた。
十年前くらいに友人宅で見た型のインターホンを押す。
が、うんともすんとも言わない。
中の人だけに聞こえるタイプには見えないし、壊れているのだろうか。
よく見ると、インターホンの横側に『壊れています。ノックしてください』と紙片が貼られていた。
「…………」
なんと言うか、安部さんのイメージとはかけ離れた住まいだ。
実年齢はともかく、苦労して小さな頃からの夢を叶えたのだろうな、と考えると余計に切ない。
頑張っている人は、好きだ。
頑張っている人は報われるべきなのだ。
とはいえ世の中、いくら全力を尽くそうが上手く行かないことは多い。
青臭い理想かも知れないが、今はせめて安部さんの力になりたいと、この住まいを見て尚強く感じた。
「安部さーん、阿良々木でーす。貴女の阿良々木でーす」
色も剥げかけたスチール製の扉を叩く。
そのまま静寂が流れること数秒、もう一度呼びかけようと思った瞬間、ドアノブがゆっくりと回った。
小さく開いた扉の隙間から、安部さんがちょこんと顔を出す。
「……プロデューサーさん?」
「ああ、良かった。無事で……」
「プロデューサーさぁん!」
扉を勢い良く開け、抱きついてくる安部さん。
ああ、やばいやばいやばい、胸、胸がががガガガ。
いかん、バグっている場合ではない。
「な…………!?」
僕は自分の目を疑った。
「な、なんなんですかこれぇ!?」
安部さんの『身体が薄くなっていた』のだ。
決して痩せた等の比喩ではない。
言葉通り、背景が薄っすら見える程に存在自体が希薄になっている。
今現在、抱きつかれた時の嬉しい感触はあるので、体積は残っているようだけれど。
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