568:名無しNIPPER
2015/02/22(日) 19:58:59.13 ID:vvYhJdZb0
「先生・・・」
佐和田勝(男子6番)は、まわりに聞こえない程度の声で呟いた。
前から2番目に座る勝は、教室に投げ込まれたのが人であること、それが担任の新垣進であることに即座に気がついた人間の一人である。
とっさに声をかけようとしたが、その前にイイダツバキの声が教室に響き渡った。
「新垣先生の猿ぐつわを取ってあげなさい」
その言葉を聞き、廊下から1人の兵士が入ってきて、新垣先生にしていた猿ぐつわをはずし始めた。
その光景を見ながらイイダが話を始めた。
「新垣先生は、皆さんが“プログラム”に参加することを承諾してはくれませんでした。そういう担任はたいてい反逆罪を適用して殺害するのですが、私は無駄に死体を増やしたくはありませんので、この場で承諾を取りたいと思います」
そう言っている間に、新垣先生の猿ぐつわと手足の縄も外されたようだった。
縄などを外し終えた兵士は何も言わずに廊下に出て行った。
「新垣先生。城中学校3年4組、男子20名、女子20名、計40名の“プログラム”参加を承諾してはいただけませんか」
「・・・そんなことに参加させる気はありません」
イイダを睨みつけながら、新垣先生が言い放った。
それを聞いて、イイダはまた、ため息をついたようだ。
そして、懐からさっき撃った銃を取り出して新垣先生に突きつけた。
「いい加減に承諾していただかないとあなたを殺さなくてはなりません。あなたは生徒にも慕われているようなので私も殺したくないんです。承諾してください」
「・・・こんな意味のないことに生徒達を参加させる気はありません」
「それが“プログラム”で4人も殺して優勝した人の言葉ですか?」
勝は耳を疑ってしまった。
いや、耳を疑ったのは勝だけではないはずだ。
今、イイダは確かに「優勝した」、「4人も殺した」と新垣先生に言った。
それは・・・あの新垣先生が、俺たちと同じ年齢のときに“プログラム”に参加させられ、人を殺したということだ。
しかし、勝には信じられなかった。
クラス担任であり、部活動の顧問をしている時の新垣先生からは、そんな姿は想像がつかなかったのだ。
「・・・そんなことは、今関係ないはずです」
「関係なくはないはずですよ。あなたも経験した、国防上必要な“プログラム”を意味がないと言ったのですから。あなたのクラスのデータも見ましたよ。あなたも立派に戦っていたじゃないですか」
「あなたは・・・あなたは子供達が殺し合うことに意味があると本当に思っているんですか?!実際の戦争になったとき、戦力になるはずのない中学生の戦闘記録が国防上にどのように役に立つというのですか?」
そうだよ、先生。もっと言ってやれ。
勝はそう思いつつ、イイダの方を見た。
イイダは黙って聞いていた。
「それに、あなた自身も参加させたいんですか?このクラスには・・・うっ!!」
言い終わらないうちに、パンッ、という銃声と新垣先生の呻き声、それと同時に新垣先生が倒れる姿が見えた。
撃たれたんだ。
それだけは分かった。
「それ以上余計なことを言うと、すぐに殺しますよ」
イイダは静かにしかし、確実に殺気を含んだ声を発した。
新垣先生のほうを見る。
どうやら、足を撃たれているようだがまだ生きている。
良かった。
勝は単純にそう思った。
「立てなさそうですね。この椅子に座ってください」
そう言ったと同時にまた、廊下から兵士が入ってきて教壇の椅子に新垣先生を無理やり座らせた。
座らせたのを確認してイイダが口を開いた。
「次が最後です。生徒達の参加を承諾してください」
最後・・・これを聞かなかったら先生を[ピーーー]って事か?!そう思ったとき、後ろのほうの席から声が上がった。
「先生、承諾してください。先生は死なないでください」
ちょっと震えているがはっきりと聞こえる声で花城涼子(女子17番)が言った。その姿を見て新垣先生が笑ったように見えた。
「・・・俺は、このクラスの参加の承諾をする気はありません」
「・・・そうですか、何か最後に生徒達に言いたいことはありますか」
「・・・俺のときのようになるな、皆を信じて行動しろ。俺が言いたいのはこれだけだ」 新垣先生がそう言ったと同時に、イイダが銃を撃った。 撃った弾丸は正確に先生のこめかみにあたり、突き抜けた。
紅い霧が舞う。 先生の目は、もうどこも映してはいなかった。 「きゃああああああ」 「うわぁぁぁぁぁぁぁ」 廊下側の一番前に座る、国吉謙一郎(男子5番)と、久保田沙奈(女子7番)の悲鳴を皮切りに教室中から、悲鳴と椅子から立ち上がるような音が鳴り出した。 勝もとっさに席を立ち、後ろのドア(前のドアには新垣先生のそばを通らないといけなかったので)に走り出していた。 死んだ、新垣先生が、目の前で、さっきまでしゃべっていたのに、俺たちのために、殺されてしまった、そう、殺された!! 勝の思考は今死んだ新垣先生の姿が離れない。 嫌だ!嫌だ!死ぬのは嫌だ! もう、それしか考えられず、ただ、ドアに向かって走った。 もう一度銃声が鳴り響き、勝は左肩に衝撃を受けてドアの前で倒れてしまった。 痛い!何が・・・何が起きたんだ!! 驚いて自分の左肩を見ると、穴が開いていて、そこから血が流れていた。 撃たれたのだと思った。 そのことに気がつくと同時に教室が静かになっていることにも気がついた。 銃声が鳴ったことで皆が静かになったようだった。 「席に戻りなさい。私の手であなた達を殺したくないですからね。佐和田君、あなたも席に戻りなさい」 まだ自分に銃口が向けられているのを見て、勝は痛む肩を抑えながら急いで席に戻った。 それを見て、イイダは口を開いた。 「これで、あなた達の“プログラム”参加が決まりました。これから、“プログラム”のルール説明を行ないたいと思います」 もう逃げられない。 今の勝に分かったことはそれだけだった。
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