過去ログ - にこ「余命幾許もない私と」真姫「私」
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59: ◆gDTYF1szXU[saga]
2014/11/04(火) 07:37:25.07 ID:+7U7EHe3O
数分後、真姫ちゃんと入れ違いで私の様子を見に来た母は、気の毒に思えるほど憔悴しきっていて。

そのせいで母に同伴して私の病室に訪れたお医者さんの落ち着いた様子が、一層際立って見えた。


「医師の立場から言わせて頂きますと、早急にご入院されることをお勧めします」

落ち着きながらも温かみを感じさせる優しい声で、その人は言う。

胸元の名札には、見覚えのある苗字。きっと、真姫ちゃんのお父さんだと思った。

「矢澤さんの病状には保険が適用可能ですから。経済的な面でも心配は要らないでしょう」

私が抱いていた懸念事項のひとつについて、その人は話す。

(……まるで説得でもされてるみたいね)

事実、そうなのだと思う。きっと母が先生に頼んだのだ。

家に居た間も何度かそういう話はした。お金のことなら大丈夫だから、と。

……でも。

「ごめんなさい」

でも本当はそんなの、入院を拒む為の言い訳に過ぎない。

「入院しないでいたら沢山の人に迷惑をかけてしまうこと、分かっています。今のままでいることが単なるワガママでしかないことも、全部」

本当は、ただ皆と一緒に過ごしていたいだけだった。

「それでもどうかお願いです。今まで通り、家に居させてください。学校にもぎりぎりまで通わせてくたさい」

皆と一緒に過ごすことで、これまでと同じ自分のままで居ようとしただけだった。

「私が矢澤にこで居られる、その時まで」

母の愛情も、先生の思い遣りもすべて無下にして。

それは現実から目を背けているだけだと、そう言われても仕方ないと思った。


けれど、そんな私を包んだのは母の優しい体温で。


「最後まで、一緒にがんばろうね」


頬を伝う雫はひとすじ、熱い軌跡を辿って心まで沁み込んだ。


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