過去ログ - にこ「余命幾許もない私と」真姫「私」
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68: ◆gDTYF1szXU[saga]
2014/11/08(土) 23:01:00.69 ID:QDIR+svQO
メールが来てから10分ほどが経過した。

料理を担当している私と絵里を除く全員が、玄関先でにこちゃんの帰還を今か今かと待ちわびている。

(私も早く向こうに行きたいけど……)

隣で盛り付けの仕上げに取り掛かっていた絵里と目が合う。

「こっちはもう完成よ」

安堵の笑みを浮かべて、絵里は言う。カラフルに彩られたサラダはとても美味しそうだ。

「私もあとはオーブンだけね」

熱を発して唸りをあげるオーブンレンジに点る残り時間は30秒。何とか間に合ったらしい。

「エリー、いろいろとありがとう」

にこちゃんのお母さんに聞いて彼女の好物まではリサーチしたものの、自分ひとりではここまで手際よく調理をこなすことは出来なかった。

というか、私はほとんど指示に従って動いていただけだったので、8割方は絵里の功績と言っても過言ではない。

悔しいけれど、今の私の料理の腕では大好きな人の好物を作ることさえままならないのだ。こんな腕で、よく調理担当に立候補したものだと呆れてしまう。

「真姫だって、よくがんばったわ」

微笑みを浮かべて私を褒めてくれた絵里は、しっかり者のお姉さんみたいだった。

「ありがと」

なんだか照れくさくって、二度目の感謝の言葉は小声になってしまう。それがおかしかったのか、私達はどちらともなく笑みを零した。

と、同時に玄関の扉が開く音がした。続いて穂乃果の底抜けに明るい声。

「しまったわね……出遅れたわ」

絵里が珍しく焦った声色でそう告げた。その声に重ねて音を立てたオーブンを見ると丁度加熱が終わったところだった。

扉を開けると、美味しそうなチーズの匂いが漂う。

「このグラタンだけ並べたら、私達も行きましょう」

少し慌てて加熱用のお皿を掴もうとした私の手を。

「真姫!熱いから素手で触ったらダメよ!」

絵里の言葉が遮ろうとする。けれど、もう遅かった。

「熱ッ」

反射的に手を離した私の元から重力に従って、グラタンの載ったお皿が地面に吸い込まれるように落ちていく。

手を伸ばしても、もう遅かった
派手な音を立てて、お皿はグラタンごと粉々になってしまう。

しん──と。

家の中が静まり返ったのが分かって、私はその場にぺたんと音を立てて座り込んだ。

この光景を見たら、にこちゃんは悲しむだろう。そう考えると私も悲しくて、たぶん泣いてしまうだろうと思った。


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