31: ◆EhtsT9zeko[saga]
2014/10/11(土) 20:04:25.30 ID:fJh3zaYgo
「ほらね」
お姉さんはそういって私に笑いかけてくれた。
あんなのに出くわして全然怖がらないでそれだけだって十分すごいのに、手から木苺あげちゃうだなんて…やっぱり、兵士さんだった、っていうのは本当なんだね。
あんなの、ふつうは怖くて絶対にできないよ…
私がそんな様子に呆然としていたら、お姉さんはそんな私を見て、クスっとまた笑った。
それからまた川に沿ってしばらく歩くと、私たちの目の前に一周千歩はありそうな泉が姿を現した。
水がすごく澄んでいて、底にある緑の藻か何かがキラキラとかがやいているのが見える。
「わぁー!」
私は思わず、そう声をあげていた。
「へぇ、こんな泉まであるんだ。やっぱり豊かな山だなぁ」
お姉さんもそういって感心している。
でも、そんな私たちの顔の前に妖精さんがパッと飛び上がってきた。
必死になって身振り手振りでパタパタと何かを伝えようとしている。
どうしたの、妖精さん?なんだか、大変、って顔をしてるけど…
私がそう思ってたら、お姉さんが怪訝な顔をして呟いた。
「こんなところに泉なんてなかった…?」
え?
私はお姉さんの言葉に少し驚いた。泉がなかった、ってどういうこと?
雨がたまってできた、ってこと?
で、でも、ここ何日かはそんな大雨降っていないし…
私はそう思ってお姉さんを見上げた。お姉さんは、口元に手を当てて何かを考えるようなしぐさを見せてから、ヒュッと剣を抜いて、泉の中に突き立てた。
剣をグイッとひねって引っ張ると、その切っ先に底にあった藻のようなものが付いてくる。ううん、これ、藻なんかじゃない。
よく見たら、足元に生えているのと同じ草だ。
ふと、私も気が付いた。この泉、足元の草がそのまま底まで続いている。
ふつう泉があるんなら、その水際は石とか砂利になっているはずなのに、この泉は違う。水際を超えて、底までびっしり草が生えてるんだ。
「確かに長いことここに泉があったような感じじゃないな…」
お姉さんは切っ先についた草を見てそう言い、それからふっと、私の方を見た。
「あんたの村、確か、洪水があった、って話だったよね?」
「え…?あ、はい、そうなんです」
私が答えたら、お姉さんはキュッと表情を引き締めて言った。
「ここが原因かもしれない…」
「原因、て洪水の?」
「あぁ、うん。本来は普通に川が流れてるだけだったのが何かの拍子にせき止められて、それが急に流れ出たら洪水になるだろ?」
「…!」
「そうか…村の人は、これを知っていたのかもしれない…トロールの仕業と考えて、だからあなたを生贄によこして、これ以上同じことが起こらないようにと頼んだ…」
お姉さんがそういうと、妖精さんがパタパタと手足を動かす。
「あぁ、わかってる。あのトロールがやったなんて思ってない。でも、村人がそう考えているかもしれない、って可能性は低くない」
お姉さんは鋭い視線で泉をギュッとにらみつけてから、真剣な表情で私と妖精さんに言った。
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