879: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/11/23(月) 22:35:36.18 ID:g/PD0yL+o
あの日、私達を騙して“生け贄のヤギ”を引き受けたときのような、悲しい笑みもない。嘘を言わなきゃいけない理由も思い当たらないし、疑うような部分もない。
もし嘘だとしても私達にそれを確かめる方法はないけれど…でも、私は勇者様の言葉を信じられると、そう思った。
勇者様は、あんな日記を書き残した人なんだ。“円環の理”を作り、世界を変えてしまったこと、そお力で世界を分かってしまったことを悔いていた。
それは、私達や大陸全土からの怒りや憎しみを向けられるためにあんなお芝居をしなきゃならないって思うほど、勇者様を深く責め立てていたんだ。
今度は、きっと大丈夫。一つだけ気掛かりはあるけれど…多分それも些末なことだ。
私は勇者様と兵長さんに頷いてみせる。すると兵長さんも頷き返してくれて、そして勇者様に視線を戻してもう一度確認をする。
「…信じて、良いのですね…?」
すると勇者様は真剣な表情で
「誓うよ」
と答え、それからすぐに眉を垂れ下げ情けない表情を見せると
「だから、その…き、斬らないでくれる…?」
と兵長さんに懇願した。
その代わり身が可笑しくって私は思わずクスっと吹き出して笑ってしまった。
兵長さんも同じだったのか、ようやく表情をほころばせると、腰に差していた探検を抜き、勇者様に掛かっていた縄を切って解放し
「斬られることを恐れられるのであれば、真実なのでしょうね…」
なんて言い、それから勇者様に対して跪くと深々と頭を下げ、まるでこの世界を救った英雄にするような最敬礼の姿勢で勇者様に言った。
「おかえりなさいませ、勇者様」
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