過去ログ - 幼女とトロール
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889: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/11/23(月) 22:43:02.83 ID:g/PD0yL+o

「だから、背負い込み過ぎだってば」

「…そう、なのかな…」

「うん。勇者様はもう、答えを知ってる。留まることのない様に見える争いが始まったとき、どうしたらいいのかの答えを知ってる。

 勇者様は、私達と一緒にそれを次の世代に伝えて行くくらいでいいんだよ。もう誰も、生け贄なんて望んでないんだから」

私がそう言ったら、勇者様はグッと黙り込んでしまった。でも、私は勇者様の反応を待った。勇者様がこんな言葉で納得してくれるだなんて思わない。

でも、少しは私達と一緒に荷を背負ってもいいかな、って、そう思ってくれればいいな、って、そんな期待を込めて。

 勇者様は、しばらくの間眼下の街に視線を落として押し黙った。その横顔を見れば、勇者様の中にいろんな気持ちが渦巻いて、せめぎ合っているのが分かる。

だから、私は待った。こういうことは、誰かが何かを言ってどうにかするものではないんだと思う。勇者様自身が整理をつけなきゃいけない。

 そして勇者様は、しばらく経って、ようやく私に視線を戻して

「…ありがとう…」

と下手くそに笑って見せた。

 まだまだ整理しきれていないんだろう、っていうのは顔を見れば分かる。だけど、私はなんだかホッと胸を撫で下ろしていた。

 そのときになって、私はようやく気が付いた。私はお姉さんに対してそうなように、きっと、勇者様のそばにも居てあげたいんだと思う。

 勇者様はずっとずっと一人だった。世界を分けてしまった罪の意識をずっと胸に秘めたままに。

そんなのは、寂しいし辛い。その気持ちが痛いほどわかるから、放ってなんておけないんだ。

「うん。何にもできないけど、私は勇者様の味方だよ」

「そんな事言ってたら、あの子に怒られるよ?」

「大丈夫。私はお姉さんの味方でもあるから」

そう言って笑って見せたら、勇者様は釣られたように穏やかな笑顔を見せてくれた。

 それから、勇者様はふと思い出したように

「ところで、何か用だったか?」

なんて聞いてきた。

いや、その、勇者様…脱走してる自覚ないの?

「勇者様を探しに」

「あぁ、追っ手だったのか」

私が言ったら、勇者様はなんだか可笑しそうに声をあげて笑う。

どうやら勇者様は、世界を分けたことは気に病んでも、私達を振り回すことは気にならないようだ。

まったく、せっかく心配して来てあげたっていうのに…

 そうは思いながらも、私は気を取り直して勇者様に聞いた。 

「それもあるんだけどね。勇者様は…ここ、嫌い?」

「え?」

「翡翠海の街でも、ここへ来るの嫌がってたでしょ?お姉さんが連れて来いって手紙くれたから来てもらったけど、嫌だった?」

私の問いに、勇者様の表情が曇った。

「…嫌、ではないよ」

眼下に投げていた視線を屋上の地面に落とした勇者様は、弱弱しく呟くように言った。

「でも、あたしなんかが、って思うんだ。あなた達を裏切って、傷付けて…そんなあたしが、どんな顔してここに居たらいいかな、って思ったら…なんだか、ね」

なんだ、勇者様、ちゃんと気にはしてたんだ…なんて思って、私は思わずプッと吹き出してしまった。
 


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