910: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/11/30(月) 01:08:28.19 ID:j0JuHi67o
お姉さんはお風呂のあと、夕食を摂りながら書類仕事をする、と言ってた。
昨日の夕方に到着した隊商がこの街で売りたい物資の資料に目を通して、議会の名義で購入しなきゃいけないらしい。
隊商が運んできてくれるのは街の人達用の品物もあるけれど、今回のように議会名義で買い上げるものも少なくない。
例えば、議会が指導を行っている畑づくりに必要な農具の類は、無償で貸してあげる決まりになっているから予備がいくらあっても足りないし、
もちろん、肥料やなんかも買い入れているし、あとは、馬とか、飼い葉とか、羊皮紙に、防衛隊や親衛隊が使う武器防具も買い入れている。
私達の自身の身の回りのものなんかはお仕事に応じた給金で賄っている。
食事だけは、一度議会名義で食材を買い入れて、その金額分を給金からそれぞれ穴埋めしている。食材は一括で買った方が安く上がるからだ。
まぁ、とにかく、そんな資料に目を通して何をどのくらい買うか、次回来るときに持ってきてもらうための注文は何にするか、なんてことを考えなきゃいけない。
本当は、数人で話し合いをしながらやることになっているんだけど、この状況じゃそれも難しい。
補佐官さん達が手伝ってはくれているんだろうけど…
それでも、昨晩帰ってこなかった、ということは、難航してしまったと考えるのが自然だった。
「私、部屋に戻る前に執務室行って様子見てくる」
零号ちゃんが荷物をまとめながらそう言ってくれたので
「うん、お願い」
と私はなるだけ明るい顔でそう頼んだ。
荷物をまとめた零号ちゃんは、ふと、自分の体に巻き付けていた毛布を腕に抱え、姫ちゃんのベッドに寄りかかって眠る勇者様にそっと掛けた。
それから私を振り返って
「勇者様、少し寝かしておいてあげてくれないかな?昨日、ほとんど寝れてないんだ」
なんて言う。
「うん、わかった。姫ちゃん起きたら、私が見るよ」
そう私が答えると、零号ちゃんは少しだけ安心したような表情を見せてくれた。
「じゃぁ、おやすみ」
「うん。ゆっくり休んでね」
私はそう言葉を交わして、部屋を出ていく零号ちゃんを見送った。
それから私は、姫ちゃんのベッドに寄りかかっている勇者様へと歩み寄る。
零号ちゃんの気持ちは、私もよくわかっていた。
たぶん、勇者様は昨日ほとんど寝れていないんだろう。
目の下には大きな隈を作っているし、顔も、眠っているのにげっそりと疲れ切っているように見える。
それならこんなところで寝かして置くのはなんだかね…
勇者様が一生懸命にやってくれているのは、すぐそばで見ている私達が一番よく分かっている。
それに、お姉さんは私達に見張ってろ、とは言ったけど、手伝っちゃいけない、とは一言も言っていない。
なにより、こんなに一生懸命にやって疲れている勇者様を放っておくなんてできない。
せっかく一緒にいて見張ってるわけだし、ほんの少しだけでもちゃんと休んでもらった方が、みんなのためにも良いと思った。
もちろん、何より勇者様のためでもあったけれど。
「勇者様、勇者様…」
私は勇者様を呼びながら、零号ちゃんにしたのと同じようにそっとその肩を揺すった。
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