955: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/12/14(月) 21:07:12.07 ID:jGgpJsLto
そう…そりゃぁ、さ…機嫌の一つも悪くなったっておかしくない、って私は思うんだ。
ずっとずっと心配してきて、もしかしたら死んじゃってるかも知れないなんてそんな事を思ってすらいただろうに、
元気溌剌でやれ鉋掛けがどうの、鋸引きがどうの、なんて生活をしていたんだなんて考えたら…腹も立っちゃうよね、きっと。
お姉さんは、目一杯の気持ちをぶちまけたせいか、それとも動かしちゃってまた血がにじみ始めた傷せいか、
クタッと力が抜けたように膝からその場に崩れ落ちる。
だけど、それでも勇者様の胸ぐらは離さない。
「世界がどうとか、裏切ったのがどうとか、そんな謝罪なんてどうだっていいんだよ…
あたしは、あんたがそうするしかなかったってことくらい分かってんだ…あたしがあんたに謝ってやりたいくらいなんだ…
感謝してもしたりないくらいなんだ…あたしは、そんなことで怒ってんじゃないんだ…」
勇者様は、お姉さんの言葉にただ呆然とお姉さんを見つめている。
そんな勇者様の目を食い入るように見つめたお姉さんは、最後に絞り出すような弱々しい声で言った。
「…自分は姉ちゃんだって、そう言ってくれたじゃないかよ…それなのに、それなのになんで、何も言わずに居なくなったりするんだよ…!
心配したじゃないかよぉ…!」
そこまで言って、お姉さんはようやく勇者様から手を放し、その場にうずくまってさめざめと泣き出した。
お姉さんは本当に勇者様がただただ心配だったんだ。
たった一人で世界のすべてを背負いこんで、古の災厄という役割を引き受けて
かつての自分の落ち度を挽回しようとした、遠い遠い血の繋がった、自分のお姉さんのことが。
勇者様はしばらく茫然とそんなお姉さんを見つめていたけれど、
ややあってそっと、本当に恐る恐る手を伸ばし、躊躇がちにお姉さんの肩に触れて、やがてその体を優しく抱き寄せた。
勇者様の肩が、かすかに震える。
「ごめんね…勝手なことして…心配掛けて…ごめんね…ごめんね…」
そうして勇者様はお姉さんに、静かに、穏やかにそう謝った。
それは世界を魔法の力に閉じ込め、大陸を二つに割り、災厄として私達を裏切った古の勇者様謝罪なんかじゃなかった。
一人の家族として、お姉さんの姉としての、妹へ向けてようやく紡ぎ出されたほんの小さな小さな謝罪の言葉だった。
勇者様の体に腕を回してお姉さんはさんざんに泣いている。ふと私は、そんな姿を見て、勇者様の本当の妹さんのことを考えていた。
昔々…自分を封印した勇者様に、お姉さんの先祖は何を思ったんだろう…?誇らしく思っていたのかな…それとも、怒っていたのかな…
もしかしたら、お姉さんと一緒でとてもとても心配したのかも知れないな。
もしそうだったとしたら、今の勇者様の言葉は、もうずっと昔に死んじゃった本当の妹さんへ謝罪のように思えているんじゃないかな…
死んじゃった家族への、か…
そう思って、私は思わず姫ちゃんをキュッと抱きしめる。姫ちゃんは相変わらず、今日ばっかりはむやみやたらに起きて泣いたりはしない。
私は腕の中で静かに眠る姫ちゃんの顔を見て、なぜだか幼い頃、あの村で過ごした自分のことを思い返していた。
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