965: ◆EhtsT9zeko[saga]
2015/12/14(月) 21:21:50.50 ID:jGgpJsLto
「人間ちゃんがそんなことをするはずないのに」
と、後ろで妖精ちゃんが憤慨しているけれど私としてはしてやったりだ。
もちろん兵隊さん達の力を借りて村をどうこうしようと思っているわけじゃない。
でも、私を追い出してもなお、力を使って遠巻きに出ていくよう言って来た村長には、
私の一存…ってわけじゃないけど、とにかく声を掛ければ各地から合計一万くらいの軍勢を集められるって事実を端的に伝えて黙らせた。
全部ハッタリじゃなくて本当のことだし嘘はない。私は、そう言って村長さんをいい任せたことでなんとなく胸がすっとするよう気持ちになった。
「おぉい、あんた!あんた、もしかして…!」
不意にそんな声が聞こえたので人混みの中を見やるとそこには、私を引き取ろうとしてくれた道具屋の女将さんが居た。
「女将さん!」
私はそう手を振って女将さんへと駆け寄る。すると女将さんは私の両手をギュっと握って
「あんときは、なんにもしてやれなくてすまなかった…本当にすまなかったね…!」
なんて泣き出してしまった。
「いいえ、女将さんがうちの子になりな、って言ってくれてあのとき安心出来たんです。だから、気に病まないでくださいね」
私はそう言いながら、もしそうだとしたら…ってことを考えて、お姉さんに書いてもらった一枚の羊皮紙を取り出して女将さん手渡した。
「こ、これは…?」
「西大陸の中央都市への推薦状です。女将さん最後まで私をかばってくれてたから、この村じゃ生活しづらいんじゃなかって思って。
もし良かったら私達の街で生活してみてください。きっといいところだと思うんですよ」
私が言うと、女将さんはまた私の手を握っておいおい泣き、それから私が住んでいた家は他の人手渡ってしまって、
家財道具や小物なんかは女将さんのところの道具屋で保管してくれているとも言ってくれた。
家のことは残念だけど…家の中で使っていた物が無事だった、というのは嬉しい。
私は明日引取に行くから、約束をして女将さんと別れさらに道をまっすぐに進む。やがて大手通りの右手には小高い丘が見え始めた。
私はその丘の上へと登る道を行き、そしてその先にあった小さな墓地へとたどり着いた。
墓石と墓石間を歩き、私はすぐに二人が眠るお墓を見つける事が出来た。
二年もの間、誰に手入れをされることもなく、花も供えられてこなかったお墓はもうすっかり荒れ放題になっていた。
私は墓石の前に跪いて両手で手を合わせる。
―――ただいま、父さん、母さん。待たせちゃって、ごめんね…
胸の中でそう謝ってから、私はトロールさん頼んで二人の骨壷が収められている石の戸を開けてもらった。
そこにはちゃんと、二人の壺が収まって居た。
その二つを手にとって墓石の中から抱え出した私は、両方を胸にギュっと抱きしめた。
竜娘ちゃんがお母さん再会できた時にも感じた。
お姉さんと姫ちゃん、零号ちゃんに勇者様、そしてサキュバスさんが一緒にいる姿を見て、私は確かに嬉しいな、ってそう思った。
でも、心のどこかでは、父さん母さんことを思い出して、胸が軋んでいたんだ。
あれから何度も父さんと母さんのことを思い出して、ここへ来たいってそう思った。
私には大事な大事な、家族と呼んだって良い仲間たちがいる。でもね、やっぱり父さんと母さんだけは特別なんだ。
零号ちゃんにとってお姉さんや勇者様が特別なように、竜娘ちゃんがお母さんを探し求めたように…
血の繋がった家族って言うのはやっぱり何にも代えがたいものなんだよね…。
私は二つの骨壷ギュっと抱きしめながら胸の中で二人に語りかけた。
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