過去ログ - 劇場版アイマスで水瀬家に宿泊した志保のお話 抄
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[sage]
2014/10/12(日) 11:55:14.14 ID:NHNSY0P+o
「不安でしょう。怖いでしょう。……安心なさい。その分の苦しさは、私がしっかり癒してあげるから」
正面に見据えられた伊織さんの表情に厳しさはどこにもなく、泣きはらす子供をあやす母親のような慈愛に満ちた微笑みがあった。
視界がにじむ。頬に添えられた先輩の手のひらを私が流した涙がつたう。
喉元までこみ上げている負の感情を吐き出してしまっても、目の前の人は笑っていてくれるだろうか。
自分自身でも受け止めきれないはずの量をぶちまけてしまったあとに先輩は私を救ってくれるだろうか。
融通が利かなくて頑固で意地っ張りな私のために気を揉んでくれる人はこの先現れないかもしれない。この人を失いたくない。
「わたし……イヤなこと、いっぱい言っちゃいます……。呆れさせて、うんざりさせるに違いないです……。
吐き出させたら、きっと止まりません。伊織さんが耳をふさいでも止めないと思います……」
先輩にメリットはひとつもない。実力不足の後輩が抱えている問題を全部投げつけるだけの負担しかかけない行為。
私が支払える対価はなにもない。私の全部を受け止めてくれる義理はない。悪条件しかない。
「それでもわたしを、あいしてくれますか……?」
何かを要求できる立場ではないのは理解している。でも、それでも。私の弱いところを受け止めてくれるという確証が欲しかった。
「トーゼン。誓いの口づけだってしてあげられるわ」
口づけ。はにかむ伊織さんの言葉は冗談なのか本気のものなのか。真意は定かでないものの、それが先輩の提示する確証ならば、受け入れたいと思った。
「……お願い、します……」
まぶたをそっと閉じ、身をゆだねた。まなじりにたまっていた涙があふれ、さらに頬をつたった。
暗闇に閉ざされた視界の向こう、頬に触れられた手指が一瞬だけこわばったように感じた。
数秒の間があり、小さなため息が聞こえた。体重移動とともにベッドのきしむ音。
「あとからファーストキスだったとか文句言われても知らないから」
唇の先端に他人の吐息が触れた直後。重ね合わされた口端から小さな水音が漏れた。
口づけを交わすという直接的で最大級の愛情表現をこの身に受けたのはいつぶりのことだろう。
閉ざした視界で過去の記憶が呼び起こされる中、幼き日の母と、――父を視た。
安心。優しさ。信頼。愛情。私がこれから口にしようとしている汚いものと真逆のぬくもりがじんわりと身体中に染み渡ってくる。
穏やかさを欲していた心はすぐさまそれに飛びつき、どす黒く染まった汚泥のような感情を吐き出させようとする。
「さ。これで素直になってくれるかしら?」
「あ……あぅ……う、うああ……っ!」
話したいことは山ほどある。なにから話していいのか分からなくて、どの話題も一番最初に話してしまいたくて、考えがまとまらない。
「夜は長いわ。まずは泣きたいだけ、泣きはらしなさい」
「ふ、……っく、うわあああああああ!!」
私よりも小さくて華奢な身体に必死にしがみついてわんわん声を上げることを、この人は許してくれる。これを幸せと呼ばず、なんと言おうか。
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