過去ログ - レッサー「『新たなる光』の名の下に集えよ、戦士」 〜闇、海より還り来たる〜
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850:名無しNIPPER[saga]
2015/05/26(火) 13:07:35.69 ID:PUGQyT270
――零れ堕ちそうな満月の下

 一面に咲くアネモネ――『アドニス』とも呼ばれる花畑。地平の果てまで続く緋色の絨毯。
 ただ二人、染みのように花園を穢すのは年若き男女。
 横たわった少年は青ざめた光に照らされ、物言わぬ骸を彷彿とさせ――。
 ――また彼の側に寄り添い、少々硬めの髪を撫でる少女は、誰に聞かせるでもなく呟く。

「わたしはずっと、あなただけを考えているから」

「喜びよりも、悲しみよりも、ただあなたの事だけを想っているから」

「――だから、大丈夫」

 呟きは闇に溶け、風は静寂を運ぶ。アドニスが身じろぎでもしない限り、それらは破れる事もなく。

「ありがとう――当麻君」

「”わたし”を探しに来てくれて――」

「――”捕らわれて”くれて、本当にありがとう」

 花々は匂い立つばかりに咲き誇る。ギリシャでは『冥府の花』とも呼ばれる、その花言葉は迷信じみている。
 記憶に無い筈の、到底知りようもなかった知識が少女の口から語られる。

「『儚い夢』、『薄れゆく希望』、『暫しの恋』、『真実』、『君を愛す』……そして」

「『嫉妬の為の無実の犠牲』……うん、そう、だよ。きっと、これは、そうなんだと思う」

 天空に浮かぶ月はその姿を変ず、見渡す限りのアドニスの園へ足を踏み入れる者も居らず。
 静寂と静謐、痛々しいまでの沈黙が支配する場で、少女はただ飽きるでもなく少年の髪を撫で続ける――。

「大好きだよ、ずっとずっと側に居るから、ね」

 ――終わる事のない『幻想』の中で少年は微睡む――。

「……当麻君」

 ――そう、世界が終わるまで。ずっと。


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